国内で初めて発見された外来種「サビイロクワカミキリ」とは何者か?
2021.11.09 コラム
#外来種 #穿孔性害虫 #害虫被害 #害虫防除
細野哲央(ほその てつお)
 一般社団法人地域緑花技術普及協会 代表理事
 博士(農学) 樹木医
先日、福島県で中国で「エンジュキラー」として知られる「サビイロクワカミキリ」が、国内で初めて見つかったという報道(NHK NEWS WEB、2021年11月2日)があり、一般社団法人 地域緑花技術普及協会のブログでも注意喚起がありました。
このカミキリムシの学名はApriona swainsoni (Hope)。

国内で初めて発見されたたので「サビイロクワカミキリ」という和名も今回初めて付けられました。
そのため、このカミキリムシの情報は日本語のwebサイトではほとんど見つけられませんでした。 

そこで、海外サイトも含めて検索したところ、USDA(U.S. DEPARTMENT OF AGRICULTURE)の資料の中に比較的詳しい情報を見つけることができました。

今回は、この資料の知見も踏まえて「サビイロクワカミキリ」の特徴や知られている被害、防除方法などについて紹介したいと思います。

「サビイロクワカミキリ」の外見的な特徴

「サビイロクワカミキリ」の体の色は、暗い灰みのある黄赤錆色、すなわち「錆色」(さびいろ)に近く、全身に小さな白い斑がまだらに入ります。
錆色 R(赤):108  G(緑):52  B(青):36

「サビイロクワカミキリ」の自然分布

「サビイロクワカミキリ」が自然に分布する国は、中国、インド、韓国、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナムとされています(Duffy,1968; Liu et al.,2006)。

「サビイロクワカミキリ」の国内侵入経路

「サビイロクワカミキリ」と同じ外来のカミキリムシである「クビアカツヤカミキリ」は、輸入木材や梱包用木材、輸送用パレットなどに幼虫が潜んだまま運ばれてきて、国内で成虫に羽化し、繁殖したものと考えられています。

また、2002年に横浜市で発見され、その後2021年に茨城県や福島県でも再び発見された外来種「ツヤハダゴマダラカミキリ」も、海路で輸入された貨物の木材梱包材に付着していた可能性が指摘されています(国立研究開発法人 国立環境研究所「侵入生物データベース」)。

「サビイロクワカミキリ」も、おそらくこれらの外来カミキリムシと同様、貨物船の輸入木材や梱包用木材の中に紛れ込んで国内に侵入したものと推測されます。

「サビイロクワカミキリ」のライフサイクル

「サビイロクワカミキリ」の寿命は2年といわれています(Duan,2001)。 

幼虫は、最初、樹皮下の形成層付近を食害し、やがて幹や枝の辺材を食害するようになります。 

「サビイロクワカミキリ」は幼虫の姿で2度の冬を越し、晩春から初夏にかけて樹皮下の浅い場所に移動して蛹(さなぎ)になります。 

そして夏季に成虫に羽化し、樹木の樹皮を後食(羽化後に餌を食べること)します。 

成虫のメスは、夜間、幹と主枝の分岐部の樹皮の割れ目に27~62個の卵を産むといわれています(Duan,2001; Wang,2011)。

「サビイロクワカミキリ」による被害

カミキリムシの仲間は、幹や枝に穿孔する昆虫で、「穿孔性害虫」と呼ばれます。

樹木の内部で羽化した成虫は円形~楕円形の穴をあけて脱出します。
この穴(脱出孔)が弾丸で打ち抜かれてできた銃弾痕のように見えるので、カミキリムシは「テッポウムシ」と呼ばれることがあります。

「サビイロクワカミキリ」を含む一部のカミキリムシは健全な樹木を加害します。

樹木はカミキリムシの加害を受けると、外観上、樹皮のただれや樹皮の枯死が起こります。
さらに樹木内部の形成層が穿孔により繰り返し傷付けられると、樹勢の衰退(樹木の元気がなくなる)が起き、最悪、樹木が枯死することもあります。

また、穿孔した傷口から木材腐朽菌が侵入し、樹木内部に腐朽・空洞が生じることで、幹・枝折れによる事故が発生する原因にもなります。

「サビイロクワカミキリ」による国内の被害はまだ十分な情報がありませんが、上記と同様のものが想定されます。
少なくとも、今回、国内の郡山市で確認された被害では、「サビイロクワカミキリ」の被害で1本が枯れて倒れ、3本が倒れるおそれが高い状態になっていたとされています。

「サビイロクワカミキリ」の被害を受ける樹種や樹木の大きさ

「サビイロクワカミキリ」の被害を受ける樹種は、マメ科のブテア・ジャケツイバラ・ツルサイカチ、イボタノキ、キリ、ヤナギ、エンジュ、チークなどが報告されています(Duffy,1968; EPPO,2013)。 

中でもとくに、エンジュ(Sophora japonica L.)は中国国内で非常に大きな被害を出しているようです(Liu and Tang,2002)。
たとえば、中国の都市部に植えられているエンジュで、1本あたり60–70か所の脱出孔が開けられるような大きな被害が報告されています(Liu et al.,2006)。

エンジュはマメ科の落葉高木。奇数羽状複葉で互生する葉が特徴です。
日本でも街路樹として利用されている樹種ですので、要注意です。

今回、国内の郡山市で被害が確認されたのはイヌエンジュの街路樹。
エンジュとは属が異なりますが、近縁の種類です。

郡山市では、市内に8路線あるイヌエンジュの通りうち7路線で被害が確認されており、ある通りでは、54本のうちの52本に被害が確認されています。

海外で被害が報告されている樹木の大きさは、小さいサイズでは直径7~8㎝からとされます。
大きいサイズになると、樹種によっては直径1m以上の樹木で被害が報告されています(Duan,2001; Liu and Tang 2002;Beeson,1941)。 
エンジュの葉
エンジュは日本では街路樹として利用されています

「サビイロクワカミキリ」の防除

「サビイロクワカミキリ」の防除方法は他の外来のカミキリムシに準じると思われます。

そこで、ここでは一般的な外来カミキリムシの防除方法を記載します。

なお、「サビイロクワカミキリ」は新しく発見された外来種であるため、適用可能な農薬が存在しない可能性があります。
まずは、成虫の捕殺、幼虫の刺殺、顕著な被害木や枯死木の伐倒と適切な処理を中心とした防除を実施していただくと良いと思います。

(1)夏季に活動する成虫を捕殺します。

(2)樹木の根元などにカミキリムシ幼虫のフンと木屑が混ざった「フラス」を見つけたら、フラスが排出されている穴から針金を挿入して幼虫を刺殺します。
 *「サビイロクワカミキリ」に適用できる登録農薬があれば、フラス排出孔などから登録農薬を注入して駆除する方法もあります が、無登録農薬の使用や登録農薬の適用外使用をすることは違法ですので、事前に十分な確認を行ってください。

(3)(2)に加え、成虫の羽化前に、樹木の幹にネットを、1周から1周半程度巻き付けておき、羽化した成虫を捕殺します。
   ネットは目の細かいものであれば、防風ネットとして市販されているもので構いません。
市販の防風ネット


(4)「サビイロクワカミキリ」の被害により枯死した枝や樹木は、内部に幼虫が潜んでいる可能性があるため、チッパーによる粉砕や焼却により処分します。

おわりに

情報が少ない中でしたが「サビイロクワカミキリ」特徴や被害、防除方法等についてご紹介しました。

国内にいなかった害虫が侵入して緑化樹木や草花に大きな被害が発生するという事案はこれまでも多くありました。

気候変動や物流ネットワークの発達によって、今後、そうした事案が増えてくるかもしれませんが、結局定着しなかったり、しばらくして国内の生態系に取り込まれて被害が沈静化したりすることも多く、慌てる必要はありません。

過剰に反応することなく、正しい情報に基づいて適切な対応を行っていきましょう。
 細野 哲央(ほその てつお)
  
 一般社団法人 地域緑花技術普及協会 代表理事
 樹木医 博士(農学)
 国立大学法人 千葉大学 客員研究員 

 樹木のリスクマネジメント、樹木医倫理の分野で日本の第一人者として知られ、樹木と人のかかわりを切り口として、多岐にわたる分野の調査・教育業績をもつ。
 植栽や庭園の施工・維持管理技術、緑化樹木の生産・管理技術、緑の生理・心理的機能、樹木の成長特性などにも造詣が深い。
 市民や若手技術者の育成には特に力を入れており、市民講座や自治体職員・技術者向けの研修会などで精力的な講演活動を行っている。 

一般社団法人 地域緑花技術普及協会(STAGE)では、市民と専門家が手を取り合い、地域の緑や花を豊かに、美しく、健全に、守り育むための情報を公開しています。

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