シリーズ「樹木の剪定講座」(基礎編)その2 どのような形に剪定するのか?
2022.02.11 コラム
#庭木 #植木 #管理 #樹形 #剪定時期
細野哲央(ほその てつお)
 一般社団法人地域緑花技術普及協会 代表理事
 博士(農学) 樹木医
(STAGE編集部の視点)
文化財の日本庭園など、高い評価を受けている庭園には美しく剪定された庭木があります。
自宅の庭木を同じように仕立てたいなら、やはりプロの植木屋さんに依頼するのが間違いありません。

それでも、自分の手で庭木をできるだけ美しく剪定したい…!
そういう方もたくさんいらっしゃるはず。

そこで、STAGEでは、シリーズコラム「樹木の剪定講座」を開講することにいたしました。
講座では基礎編・実践編・応用編で構成し、樹木の剪定を「アカデミックに、でも分かりやすく」解説します。
講師は、植木の維持管理技術について市民講座などで多くの講演をされている細野哲央さん。

「樹木の剪定講座」の第一回目は基礎編。
「そもそも庭木をなぜ剪定する必要があるのか」「どのような形にするのか」「どのような剪定があるのか」「いつ剪定するのか」について解説していただきます。

どのような形に剪定すればよいのか?

前回のコラムでは、剪定が必要な理由を整理しました。

人が生活・利用している場所であれば、樹木の大きさや茂り方には一定の制約が出てくるのは当然で、剪定を一切しないという管理はほとんど無理なことだと思われます。

シリーズ「樹木の剪定講座」(基礎編)その1 なぜ剪定が必要なのか?

どのような形に剪定すればよいのか?

では、剪定する場合にどのような「形」を目指すべきでしょうか。
今回のコラムでは、剪定と樹形についてお話しします。

なお、具体的な剪定のテクニックは、実践編で扱うこととし、今回は剪定の基礎として、どのような樹形を目指すのかについてお話します。

なるべく管理頻度を少なく樹形を維持したいなら―自然樹形をイメージした樹形

樹木には樹種ごとの特徴的な形、「樹形」があります。

ざっくりと分類すると、針葉樹は円錐型、広葉樹は卵型が「自然樹形」です。
卵型は広葉樹の典型的な自然樹形
針葉樹(メタセコイア)の特徴的な円錐形
その自然樹形とは異なる樹形に樹木を剪定したり、幹を切り下げたりすると、その樹木は本来の自然樹形に戻るように枝葉を伸ばします。

たとえば、自然樹形が卵型の樹木の枝を切り詰めて円錐型のような矯正型に仕立てても、切られた枝から通常よりも勢いのある(良く伸びる)枝が伸びて、まもなく本来の卵型に戻ってしまいます。

もし矯正型の樹形を維持したいのであれば、手間をかけて頻度の高い剪定管理をしていかなくてはなりません。

したがって、なるべく手間をかけずに樹形を維持したいのであれば、樹木の自然樹形を相似形で縮小するようなイメージで剪定することです。

樹木を一度に小さくしようとして切り詰めるのは悪手

樹木を自然樹形の相似形で剪定したとしても、一度に小さくしようと幹や枝を強く切り詰めるのは良い方法ではありません。
こうした剪定をすると、普通、その後に枝や幹から長い枝が四方八方へ吹き出して伸びます。
いわゆる「枝があばれる」状態です。

樹形が乱れ、枯れ枝もたくさん出てしまう剪定ですので、後々の管理に余計な手間がかかることになってしまいます。
ケヤキの街路樹。自然樹形を無視した強剪定をすると枝が暴れる。
枝を強く詰めた後の樹木管理はとても大変
なぜこのような現象が起こるのでしょうか。
それは、養水分や植物ホルモンの流れやすさと量が関わると考えられています。

枝の伸びる勢いは、ふつう幹から遠くなるほど弱くなります。

枝が芽から伸びて成長するには、養水分や植物ホルモンが必要ですが、幹から遠くなるほど、それらの輸送距離が延び、また輸送通路である維管束の太さが細くなるからです。
物資を届けるのに、首都圏の都市部と地方の山村のどちらが有利かを考えると分かりやすいと思います。

一度に小さくしようと幹や枝を強く切り詰めた場合、新しく伸びる枝は、幹に近く、太い枝(したがって、維管束も太い)の芽(休眠していた芽や新しく発生した芽)から成長することになります。

幹に近くて太い枝は、いわば幅員が広くて交通量の多い国道や主要地方道です。
したがって、新しい枝には養水分や植物ホルモンが効率的に供給されることになるのです。

また、新しい枝は、芽から樹木の幹や枝に貯蔵されている栄養分を利用して伸びます。
強く切り詰められた結果、本来は細かく分岐した枝先のたくさんの芽に分配されるはずだった貯蔵栄養分はどこへ向かうのか?
一部をそのまま貯蓄しておければよいのですが、樹木はそんな器用なことができません。
結局、貯蔵養分は強く切り詰められて数少なくなった芽に集中することになります。

こうしたわけで、幹や枝を強く切り詰められた後に、新しく伸びる枝は長く太く成長し、葉をたくさんつけるようになるのです。

なお余談ですが、こうした枝の成長メカニズムを考えれば、落葉を減らすことを目的として丸坊主にするような剪定をしても効果的でないことが分かると思います。
剪定で無理に樹形を縮小してもすぐに元の大きさに。しかも枝が暴れて以前よりも厄介な状態に。

人工的に仕立てる樹形

樹木の幹や枝を人為的に曲げたり誘因すれば、自然樹形とは異なる人工的な樹形を作ることもできます。

人工的樹形には、庭の装飾物として装飾的・彫刻的に仕立てる樹形や、人が理想とする「自然」を感じさせる形に仕立てる樹形があります。

(1)装飾的・彫刻的に仕立てる樹形

装飾的・彫刻的に仕立てる場合は、刈込ばさみやヘッジトリマーなどで樹木を刈り込みます。
西洋庭園では、樹木を造形的に刈り込み、「トピアリー」と呼ばれる幾何学的な形や立体的な動物の形などに仕立てることがあります。

日本庭園でも、低木を玉や不定形に刈り込んだり、枝ごとに球を作るように仕立てる「玉散らし」の樹形は良く見られます。

生け垣も、仕切りや目隠しといった機能面を重視した仕立て方ですが、高さや幅をそろえ、面を凹凸なく、角をきれいに仕上げるという点で、装飾的・彫刻的な要素も持ち合わせています。
樹木を材料として幾何学模様や生き物などを造形するトピアリー
刈り込みで仕立てられたイヌマキの生け垣と門
刈り込んで作る樹形は、本来の枝の成長の仕方に抗う樹形ですので、樹形を維持するためには、頻度の高い、一般的には年に1,2回の剪定管理が必要となります。

もちろん、複雑な形ほど仕立てるのに手間と時間がかかり、形を維持するのも大変です。

ただ、刈り込みという方法自体は、面で剪定ができるので(剪定ばさみや木ばさみを使った剪定は点の剪定です)、ち密な形を求めなくてもよいのであればとても効率的な剪定方法です。

刈込面積が小さければ、刈込用の機械であるヘッジトリマーを使えばそんなに時間はかからないはずです。
電動式のヘッジトリマーなら扱いやすく価格も手頃なので、一般家庭でも使用しやすいと思います。
ヘッジトリマーを使った刈り込み

(2)人が理想とする「自然」を感じさせる形に仕立てる樹形

日本庭園の松の樹形や盆栽の樹形は、自然な樹形に見えるかもしれません。

しかし、実際には、老木感や巨木感、厳しい環境で育った風情など、いわば作り手側の人間が表現したい「自然ぽい」樹形を観賞するために手間をかけるものも少なくありません。

自然の中にある見栄えの良い木に見える樹形の代表的なものを下記に示します。

・直幹:幹を一本まっすぐ伸ばした樹形で、光を全方位から得られる環境で育った樹木を表現しています。
・斜幹:一本の幹が一方向へ傾いた樹形で、光や吹き付ける風が偏っている環境で育った樹木を表現しています。
・曲幹:一本の幹が左右へ曲がって模様を描くように伸びる樹形で、模様木ともいいます。
・双幹:二本の幹を立ち上げる樹形で、各幹の大きさは差をつけるのが普通です。
・株立:複数の幹を立ち上げる樹形です。

おわりに

今回のコラムでは、剪定する場合にどのような「形」を目指すべきかについてお話しします。

剪定と樹形について、新しい気付きがあったでしょうか。

なるべく管理頻度を少なく樹形を維持したいなら、自然樹形をイメージした樹形を作りましょう。

一方、作りたい人工的な樹形があるなら、基本的な樹形の型を知ったうえで定期的な剪定を心掛けてください。

次回のコラムでは「どのような剪定があるのか」についてお話しします。

 細野 哲央(ほその てつお)
  
 一般社団法人 地域緑花技術普及協会 代表理事
 樹木医 博士(農学)
 国立大学法人 千葉大学 客員研究員 

 樹木のリスクマネジメント、樹木医倫理の分野で日本の第一人者として知られ、樹木と人のかかわりを切り口として、多岐にわたる分野の調査・教育業績をもつ。
 植栽や庭園の施工・維持管理技術、緑化樹木の生産・管理技術、緑の生理・心理的機能、樹木の成長特性などにも造詣が深い。
 市民や若手技術者の育成には特に力を入れており、市民講座や自治体職員・技術者向けの研修会などで精力的な講演活動を行っている。

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