樹木の樹形のはなし(2)ミクロなスケールの環境によって変化する動的な樹形
2022.01.24 コラム
#自然樹形 #剪定 #品種改良 #環境
細野哲央(ほその てつお) 一般社団法人地域緑花技術普及協会 代表理事 博士(農学) 樹木医
一般的に、針葉樹は1本のまっすぐな幹をもつ円錐形の形、広葉樹は卵型になっていきます。 樹木の樹形のはなし(1)では、こうした自然樹形のほかに樹齢によって変化する樹形をお話ししました。 樹木の樹形のはなし(2)では、ミクロなスケールの空間の環境によって変化する樹形についてお話しします。
樹木の樹形のはなし(1)樹木が本来持っている自然な樹形
動的な樹形の変化
樹木は、光が当たる方向や風が吹いてくる方向、根が伸びられる土壌の深さなど、その樹木が生育しているミクロなスケールの空間の環境によって樹形が変わります。 樹木が育つ環境は、ときに樹木が本来持っている性質よりも樹形に影響を及ぼすこともあります。 開放的な空間で育つ一本の樹木は、持って生まれた自然な樹形となりますが、林に囲まれた中で育てば下枝が枯れて光が差す上方に枝葉が集まった樹形になります。 林の縁で育てば、枝葉は光が得られる林の外へ大きく伸びていく結果、左右非対称の樹形となります。 建物の際に植えられているような樹木も、建物側の枝葉は光が不足して育たず片枝の樹形になっていきます。
風も樹形に影響する要因です。 山からの吹きおろしなど、一方向からの強い寒風を受け続けるような場所で生育している樹木は、風上の新芽が寒風で損傷してしまうため、風下側だけに枝が残ります。 このような樹形を旗竿樹形といいます。 片側から潮風を受け続ける場所では、頂芽まで枯れてしまうため、結果的に海から逃げるような階段樹形を作ることもあります。 (そのような場所で生き残れる樹木は一部の潮風に特に強い樹種だけです。)
土の硬さ、地下水位の高さや水はけなど、樹木が生育する土地の土壌に制約がある場合も樹形に影響します。 樹木が深くまで根を張れないような土地では、樹高が伸び悩み、樹冠(枝葉の茂っている部分)が本来の自然樹形よりもつぶれたようになります。 さらに土壌条件が悪くなると、樹勢が衰退し、主幹が枯れ下がって老木の樹形を呈するようになります。
次回は、樹木の樹形のはなしの最終回です。 最後に人為的な影響で起こる樹形の変化についてお話ししたいと思います。
樹木の樹形のはなし(3)人による樹形の変化
細野 哲央(ほその てつお) 一般社団法人 地域緑花技術普及協会 代表理事 樹木医 博士(農学) 国立大学法人 千葉大学 客員研究員 樹木のリスクマネジメント、樹木医倫理の分野で日本の第一人者として知られ、樹木と人のかかわりを切り口として、多岐にわたる分野の調査・教育業績をもつ。 植栽や庭園の施工・維持管理技術、緑化樹木の生産・管理技術、緑の生理・心理的機能、樹木の成長特性などにも造詣が深い。 市民や若手技術者の育成には特に力を入れており、市民講座や自治体職員・技術者向けの研修会などで精力的な講演活動を行っている。
関連記事