雨水を利用するビオトープ:レイン・ビオトープ【シリーズ・知っておきたい緑花の基礎知識】
2021.10.04 コラム
#計画 #設計 #生物多様性 #雨水利用
豊田幸夫 STAGEプリンシパル・プロフェッショナル・パートナー 技術士(建設環境)、樹木医
一般社団法人 地域緑花技術普及協会(STAGE)では、緑と花を通じて健康な生活を送るための情報や、緑・花を元気に育てるために役立つ情報を公開しています。 「知っておきたい緑花の基礎知識」は、STAGEプロフェッショナル・パートナー豊田幸夫氏が作成された、趣味で庭造りを楽しむ方から植栽管理のプロフェッショナルまで幅広く参考にしていただける技術資料です。 このコラムでは、「知っておきたい緑花の基礎知識」を皆様にさらに分かりやすくお伝えできるようにSTAGE編集部がインタビュー形式で再構成したものです。
― 今日は「レイン・ビオトープ」について教えてください。 豊田幸夫さん(以下:豊田): 「レイン・ビオトープ」とは、雨水の貯留や利用を考慮したビオトープのことです。 ― 雨水の貯留は豪雨時の都市型洪水の発生を防ぐ効果がありますね。 そういえば、雨水を一時的に貯留できる植栽地を、雨庭、「レイン・ガーデン」と呼びます。 「レイン・ガーデン」では雨水は時間差で地下へ浸透していきますが… 豊田: 「レイン・ビオトープ」では雨水をそのまま貯留しておき有効活用してしまおうというわけです。 具体的な利用方法としては災害時の生活用水や消火用水などが挙げられます。
― ひと手間かければ、平時でも植栽地への潅水などの雑用水としても使えますね。 「ビオトープ」は土や水、在来の植物などを構成要素として、そこで野生の生きものが生息・生育できる場所のことですから、生物多様性に注目した用語でもありそうです。 豊田: その通りです。 様々な機能発揮を期待できるのが「レイン・ビオトープ」です。 そのほかにも、水の蒸発散で気温上昇を抑制してヒートアイランド現象を緩和する効果や、潤いのある環境や憩いの場を作り、都市の景観を形成する効果などもあります。
― 「レイン・ビオトープ」をつくる上での留意点を教えてください。 豊田: 水の循環設備は必ず設置しましょう。 酸素を供給して水の腐敗を防ぐことができます。 水循環設備(電源、給水、水中ポンプ、吐出口)のほか、水位センサーと補給水管、オーバーフロー、排水桝なども必要です。 池や流れの底は、砂利や砂敷きにすれば砂利や砂敷きに棲む微生物で水質浄化ができるので、ろ過装置は設置しなくても大丈夫です。 水草を植える場所には荒木田土や細かい赤玉土を使用します。 止水シートは、大型の池の場合は自己修復機能があるベントナイト系のものを使うとよいでしょう。
豊田: 藻が発生することもありますが、ビオトープではある程度の藻が発生するのが自然です。殺藻剤は使用せず、過剰に発生した藻類は網で取るようにします。 護岸は、水草や水辺植物が生える植生護岸や、ジャカゴ、自然石護岸、乱杭、州浜など、多様なものができるとよいです。 石積みは、安全面を重視する場合にはモルタルなどの充塡材を使って固定しますが、できれば充填剤を使わない「空積み」が望ましいです。空隙に植物の生育や昆虫などの生息が期待できるからです。 池際の勾配は緩やかにし、水深は深いところで30~50cm、部分的には水深0~10cm程度の湿地をつくり、池に高低差をつけます。 中島や浮島などもあるといいですね。 水辺には水草や日陰となる低木を植えるようにします。 池の周囲のうち半分くらいは人が近づかないように背の高い水草や低木などを植えるとよいでしょう。 水草は、在来種から選ぶことを基本として外来種や園芸種は極力避けます。 周辺自生地からの移植が可能であれば、これを第一に考えましょう。 蚊の幼虫の駆除・防除としては、天敵の放流・誘致をし、蚊の幼虫を被捕食者として位置づけて生態系を構築します。 ただし、鯉などの大型魚はヤゴなどの在来生物を捕食するので放流しないようにしてください。
豊田幸夫(とよだ ゆきお) STAGEプリンシパル・プロフェッショナル・パートナー 技術士(建設環境)、樹木医 元鹿島建設(株)・ランドスケープデザイン部・兼務・技術研究所、(株)ランドスケープデザイン設計部 技術部長。 屋上緑化・屋上庭園、ヒーリングガーデン、エディブルガーデンの計画・設計を専門分野とする。現在は樹木医・環境造園家として活躍中。
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