身近な雑草と野草【シリーズ・知っておきたい緑花の基礎知識】
2022.05.10 コラム
#計画 #設計 #管理 #マルチング #緑化 #食材 #災害
豊田幸夫 STAGEプリンシパル・プロフェッショナル・パートナー 技術士(建設環境)、樹木医
一般社団法人 地域緑花技術普及協会(STAGE)では、緑と花を通じて健康な生活を送るための情報や、緑・花を元気に育てるために役立つ情報を公開しています。 「知っておきたい緑花の基礎知識」は、STAGEプロフェッショナル・パートナー豊田幸夫氏が作成された、趣味で庭造りを楽しむ方から植栽管理のプロフェッショナルまで幅広く参考にしていただける技術資料です。 このコラムでは、「知っておきたい緑花の基礎知識」を皆様にさらに分かりやすくお伝えできるようにSTAGE編集部がインタビュー形式で再構成したものです。
― 今回は雑草や野草について教えてください。 人が栽培する作物とは区別できますが、雑草と野草は何が違うのでしょうか。 豊田幸夫さん(以下:豊田): 雑草とは植物を栽培する場所に生える植物のことです。 畦道などの直接作物が栽培されていないところに生える植物は人里植物といいますが、これも雑草として扱うのが一般的です。 それ以外の場所に生えている植物は野草ですね。 ― 生えている場所で区別されているのですね。 雑草は栽培される植物・作物の管理などの邪魔になることから嫌われて取り除かれていることが多いと思います。 豊田: そうですね。雑草により作物への光がさえぎられたり、作物にいってほしい水分や養分がとられたりしますから。 ナンバンギセルやネナシカズラなど、作物に寄生して直接養分や水分を奪い取る植物もあります。 毒成分のある雑草種子は穀物などへの混入問題が生じますし、悪臭のある植物を食べた牛から採った牛乳には異臭が出ます。 コオロギ、バッタ、キリギリスなどの虫の住処となることを嫌がる人もいるでしょうし、景観上見苦しいこともあるでしょう。 ― 歓迎される要素がありませんね…。 豊田: いや、雑草にもいいところはたくさんありますよ。 マルチング(*)として土壌の飛散や乾燥を防止する効果はその一つです。
*詳細は、「落葉を有効活用:落葉マルチ【シリーズ・知っておきたい緑花の基礎知識】」をご覧ください。
落葉を有効活用:落葉マルチ【シリーズ・知っておきたい緑花の基礎知識】
豊田: 作物の根が入らないような固い土でも地中深く伸びていって土を深く耕す効果がありますし、ローメンテナンスの自然風の緑化ができる緑化植物と考えることもできます。 ミネラル分の豊富な堆肥にもなり、多様な生物の餌や住みかにもなる。 薬草や健康茶、薬用酒などの材料となるものもあります。 スギナやオオバコ、タンポポなどは、日本では雑草として扱われていますが、ヨーロッパではハーブとして扱われます。 和ハーブなら、ヨモギやドクダミ、ツユクサ。ハコベとナズナ(ペンペングサ)は春の七草として食べますね。 ― 食べられる雑草・野草もたくさんありそうですね。 豊田: はい。ハーブとして扱われ、食べられている野草にはミネラルやビタミン類が豊富に含まれています。 とくに災害時は新鮮な野菜をとることが難しいのでミネラル・ビタミン不足になりがちです。身近な食べられる野草を知って大切にすることが、災害時や緊急時の健康につながります。 食べられる野草のリストを挙げておきましょう。
― 雑草の良いところをたくさん知ることができました。 緑地も、過度に除草して管理費が増大したり、除草剤を不適切に使用して環境汚染を引き起こしたりといったことも問題になっていますから、雑草との共生を考えなければいけませんね。 豊田: そうですね。 雑草が生えてはいけない緑地なのか、それとも自然との共生を図った緑地なのか。 緑地の目的と利用方法を考慮して雑草が問題となる場合がどうか検討して適切な対策をすることが必要です。 ― あまり雑草を生やしたくない緑地での雑草対策について教えてください。 豊田: 雑草の種子の侵入は、バークチップなどを使ったマルチングや、グランドカバープランツ類の植物で地表面を覆うことで抑えることができます。 野菜や草花などを栽培している場所では、防草シートやペーパーマルチを敷設します。 また、野菜や草花はポット苗から栽培し、雑草より早く成長させることで雑草の成長を抑制することができます。 緑地に外部から運び入れる土壌は、なるべく雑草の種子や根の混入が少ないものを使いましょう。 場合によっては人工軽量土壌や改良土壌を使用します。 芝生では、芝刈りによって、雑草の芽の成長点を切り、雑草の生長を押さえることができます。 4~5cmの高刈りにすれば、雑草の種子の進入防止にも効果があります。 自然との共生を図った緑地でも、景観を考慮すると、セイタカアワダチソウやオオアレチノギクなどの背の高くなる雑草や繁殖力の旺盛なツル性のヤブガラシなどの雑草は手抜きによる除草を行ったほうが良いでしょう。 除草は種子が結実する前にしましょう。 除去した雑草はマルチングに使用したり、堆肥にしたりすることができます。 除去した雑草を集積する場所を作っておけば土壌微生物が増え、それだけでも周辺の土壌環境が改善されるでしょう(*)。
*詳細については、「落葉を集めるだけで植物が元気になる~落葉集積箱の作り方【シリーズ・知っておきたい緑花の基礎知識】」をご参照ください。
落葉を集めるだけで植物が元気になる~落葉集積箱の作り方【シリーズ・知っておきたい緑花の基礎知識】
関連参考図書
雑草で元気になる本―食べるレシピ&薬効メモ付き 春から秋まで 小崎 順子 (著)
食べる薬草事典―春夏秋冬・身近な草木75種 (大地の薬箱) 村上 光太郎 (著)
自然治癒力をひきだす「野草と野菜」のクスリ箱: 体と心の不調をなくす「自然療法」の食事と手当て (単行本) 東城 百合子 (著)
食べる野草図鑑 岡田 恭子 (監修)
自分で採れる薬になる植物図鑑 増田 和夫 (監修)
和ハーブにほんのわすれもの―あなたを本当に元気にする新しい伝統のカタチ 古谷 暢基 (著), 和ハーブ協会 (編集)
薬草・毒草を見分ける図鑑: 役立つ薬草と危険な毒草、アレルギー植物・100種類の見分けのコツ 磯田 進 (監修)
豊田幸夫(とよだ ゆきお) STAGEプリンシパル・プロフェッショナル・パートナー 技術士(建設環境)、樹木医 元鹿島建設(株)・ランドスケープデザイン部・兼務・技術研究所、(株)ランドスケープデザイン設計部 技術部長。 屋上緑化・屋上庭園、ヒーリングガーデン、エディブルガーデンの計画・設計を専門分野とする。現在は樹木医・環境造園家として活躍中。
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