【樹木事故の現場】平和大通りのアメリカサイカチの倒木(広島市)保存が強く望まれる樹木と点検の評価判定
2024.07.03 コラム
STAGE 編集部 

人と緑・花をつなぐコーディネーター
 地域緑花技術普及協会
6月23日午後、広島市中区の平和大通り沿いの緑地帯で樹齢70年のアメリカサイカチ(*)(高さ約10m、幹回り2.3m)が根元から倒れました。
幸い人身被害はありませんでした。
平和大通りでは、昨年から街路樹の倒木事故が相次いで発生。
3月にクヌギが倒伏、8月にはトチノキが幹折れしていました。

今回倒れたアメリカサイカチは、アルゼンチン大統領夫人だった故エバ・ペロン(*)氏から1953年に平和を願って送られた種から育てられたという由緒のある木だったといいます。
樹齢70年余り。

中国新聞デジタル2024年6月24日
平和大通り、この1年余で倒木3件 支柱で補強した樹木も倒れる 広島市は点検項目見直しも

https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/484797

平和大通りでは昨年9月に約1800本の街路樹点検が実施されていました。

倒れたアメリカサイカチは4段階のうち2番目に危険性が高い「著しい被害が見られる」と判定されており、経過観察措置となっていたということです。

NHK NEWS WEB 2024年6月24日
平和大通りの倒木 広島市が今週めど調査へ

https://www3.nhk.or.jp/hiroshima-news/20240624/4000026181.html

市の担当者は、倒木の原因は大雨によるもので、すでに支柱が設置されていたことから倒れるとは予想していなかったと説明。

今後は、樹木医の意見を聞きながら詳細な原因を把握し、点検項目の見直しも検討するとしています。

NHK NEWS WEB 06月26日
平和大通りの倒木 広島市が点検項目の見直しも検討

https://www3.nhk.or.jp/lnews/hiroshima/20240626/4000026206.html

STAGE編集部では、googleマップを使い、倒れた木を特定しました。
倒れる前年、2023年11月の様子です。
やぐら支柱がかかっていますので、根の支持力に問題がある状態のようです。
植え桝の内側に二客鳥居支柱(一般的な街路樹に良く使われるタイプの省スペースで設置できる鳥居型の支柱です)が掛かっている若木が見えます。
この若木は元の木の根株から伸びた「ひこばえ」を育てたものですね。
「ひこばえ」は木の樹勢が弱っているときや強い剪定がかかったときの反応として発生することが多いです。
「ひこばえ」を大切に育てているということは、元の木に代わる次世代の若木を育てようという意図です。
ここまでするのは、この木に由緒があるからですね。なんとかこの木のDNAを残したい。
同時に、管理者的には元の木が限界を迎えていることを認識できているということでもあります…。
ひこばえの若木のアップ。
アップしてみると、右側の支柱、設置された後に傾いていないですか?
添木が元の木の支柱に結束してあるようなので、これは元の木が傾きを増していることを示しているような…。

街路樹でありながら、この木を残したいという強い意志が管理者サイドから感じられたことに興味がわきました。
この木の以前の様子を過去にさかのぼって確認してみます。
それができるのがgoogleマップの便利なところです。

こちらが2011年6月の様子。倒れる13年前です。
これは大きい。倒れた2024年と比べると3倍くらいの高さがあったかもしれません。
見る方向を変えて。近寄ると明らかな樹勢の衰退は見て取れますね。
枝先、いわゆる梢端といわれる部分に多数の枯れが見られます。
日当たりの良い梢端が枯れるのは木に元気がなくなっている証拠です。

原因は…全景の画像だけでは断言できませんが、植え桝の中に根が回り根詰まりしてしまっているか、根株に腐朽が入ったか、いずれにしても根に問題が起きている状態だと思われます。
2014年1月。落葉期のため樹勢の判断は難しいですが立派な木姿でした。
2015年6月の様子。2011年の状態と比べるとどうですかね。
枝葉の密度が明らかに薄くなっているように見えます。
つまり、樹勢の衰退が進んでいるということです。
それから1年後の2016年10月。樹勢の衰退がさらに進んでいることが分かります。
見る方向を変えて近くから。樹勢の衰退が顕著です。これは枯れてしまう…。
2017年8月。枯れていません。
しかし、昨年と比べると細枝の数が大きく減っています。
多くの枝が枯れ落ちているということです。
2018年6月の様子。冬に強い剪定をかけて樹形を小さくしましたね。
枝枯れが増えてきていたのでやむを得ない措置だと思います。

全体の枝は少なくなったものの、小さくしたおかげで葉の吹きが力強くなったように見えます。
樹液の通導が阻害されている枝がなくなり、残った枝に養水分が良く行き渡るようになったからです。
この大きさで維持できていければ良いのですが。経過観察ですね。
2020年10月。全体の葉、特に半分より上側の葉が顕著に少ないですね。
樹形を小さくした2年前と比べて枝が伸びている様子もないです。
別アングルから。これは厳しいですね。
樹勢衰退は顕著、ここまでくると回復は難しい状態です。
街路で人通りも多い空間なので危険木と判断されます。
専門家としては伐採を進言するケースです。
2021年8月。おお、残したんですね…。
伐採はしたくないという強い意志を感じます。
安全面は考慮して、樹高はさらに半分まで下げ、やぐら支柱を設置しています。
ただ、支柱に関してはこの木を支えるにしては貧弱かなあ。
一方で、樹勢は劇的に良くなりました。
枝葉の吹きが力強いです。
樹液の通導阻害が改善された効果と、もしかしたら他にも樹勢回復措置を何か講じたかもしれません。

ただ、樹勢の評価と倒木リスクの評価とは一致しないこともあります。
もともとの樹勢衰退の原因になったと思われる根株の状態が気になるところです。
2022年5月。この時点で元の木の根株から伸びた「ひこばえ」を保護するために二客鳥居支柱が掛かっています。

管理者サイドとしては、元の木は残しつつも長期的に残すことは既に諦め、次世代の若木を育成するという意識の方が強くなっているようです。
2023年11月の様子。
この年9月の街路樹点検で、この木は4段階のうち2番目に危険性が高い「著しい被害が見られる」と判定されて経過観察措置とのこと。

そうですね…。樹勢だけ見れば悪くない。
悪くないですが、この時の根株の状態はどうだったのか…。
その翌年に倒れました。倒れた時の報道写真を見ると、根株の状態は極めて悪そうなんですよね。
点検で分からないようなレベルではないほどに。
アップにすると、右側の支柱に木の重みでテンションがかかっているように見えるような気も…。
これは木の傾斜が増してきていたのでは…。

今回は、由緒があり保存が強く望まれる樹木が倒伏したケースを取り上げました。

もちろん、そうした事情が街路樹点検の評価判定や具体的な措置に影響を与えることはあってはなりません。今回のケースでも適切な評価判定・措置が行われたと信じたいと思います。

幸い人身被害もなかったため、非常に興味深いケースとして検証させていただきました。

後日追記
3日の広島市長の記者会見で、松井一実市長は、秋に予定していた樹木医による点検を前倒しして今月から始めることを発表。
「樹木医による徹底した点検を行って、倒木の危険性を早期に発見して、周到な保全措置を講ずるなど、安全・安心な環境づくりを進めていきたい」と話しました。

倒木の原因についても、新たに「地表付近の幹や根が腐り地面が空洞化したことと大雨による影響」との樹木医からの見解が報道されました。
「地面が空洞化」、この表現にはやや違和感を感じなくもないですね。

昨年の点検結果のスクリーニングと対応措置の再検討を行っていただくこともお勧めしたいです。

(書籍紹介)街路樹の事故についての詳しい情報が掲載されています。

道路植栽の設計・施工・維持管理―安全な街路樹・危険な街路樹(中島宏)経済調査会出版部 (2012/1/1)

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