【樹木事故の現場】代々木公園前・ケヤキ街路樹の枝折れ事故 事故の原因に迫る~分岐部の弱点
2023.09.14 コラム
STAGE 編集部 人と緑・花をつなぐコーディネーター 地域緑花技術普及協会
9月8日午前10時過ぎ、都道413号(代々木公園通り)で、街路樹のケヤキの枝折れで、付近に停車していたトラックやタクシーを巻き込む事故が起きました。 当時、東京は台風13号の影響で雨は降っていたものの、そこまでの強風は記録されていませんでした。 同時刻、ほかに近隣での倒木・枝折れ事故も報告されていません。 なぜこの木だけ、このような事故が起きたのか? 事故から3日、STAGE編集部が現場を取材したところ、事故の原因を示唆する事実がわかりました。
【速報】東京・代々木公園近くで倒木 台風13号の影響か | TBS NEWS DIG (1ページ) https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/709985
先週のニュースですが倒木原因究明コラムの埋め込み素材として利用させていただきます。
— 一般社団法人 地域緑花技術普及協会 (@stageforgreen) September 14, 2023
【速報】東京・代々木公園近くで倒木 台風13号の影響か | TBS NEWS DIG (1ページ) https://t.co/DVCIcseBC1
渋谷の413号線倒木で道が塞がっている#事故#台風 pic.twitter.com/WXleWKzOnB
— にゃん(=^・・^=) (@S_showt28) September 8, 2023
「倒木」との報道がありますが、根元から倒れるのが倒木なので、事故形態としては「枝折れ」という方が正確。 ただし、枝折れとはいえ、折れた枝はかなり大きく、並みの街路樹なら一本分以上ともいえる質量です。 人身被害が出なかったことは不幸中の幸いでした。 被害に遭った運転手は下記のように事故当時の恐怖を語っています。
「停車して車外に出たんですよ。そしたらものの1分もたたないうちに、ガサガサみたいな音がして、大きな木が落ちてきて直撃した。本当に目の前に木が落ちてきたので、ちょっとでもズレていたら、たぶん頭とか直撃したかな」
FNNプライムオンライン イット!(2023年9月8日)「東京でも台風13号の被害 代々木公園に隣接道路ではタクシーに倒木、錦糸町駅付近では足場倒れて1400戸停電」
さて、それでは現場取材、行ってみましょう。 報道されている画像の背景から推測すると、事故現場はこのあたりのはず…
予想通りの場所ですぐに見つけられました。これが枝折れしたケヤキですね。 枝折れした傷口、地面にはチェーンソーの切り屑。間違いありません。 パーキング・メーター設置区間なので駐車車両があります。 事故当時もこのエリアに中停車していた車両が巻き込まれました。 よりにもよって観光バスが路肩ぎりぎりに止めているので圧迫感がありますが、近づいて見てみます。
なかなか派手に裂けています。 と思ったら違和感。 目立つ大きな傷跡は…。今回できた傷かと思いきやこれは過去のものですね。
周辺部から癒合組織が上がって傷跡を巻き込んできているのが分かるでしょうか。 木材の見た目の状態からしても、昨日今日の傷でないことが分かると思います。
ここでgoogle map。以前の状態を確認してみます。 これは2021年5月の状態。この時は問題なし。
今度は2022年10月。事故の起きる約1年前です。 道路側の枝が裂けていますね。傷跡はまだ新しそう。 傷跡の形状は現在目立っている古傷と一致します。 今回折れた枝の外側(道路側)には、もともとは大枝があり、この枝が事故の前の年に何らかの原因で裂け落ちていた、ということが分かりました。 ちなみに、傷の上に見えている▲の黒ずんでいる部分、分かるでしょうか。 隣接する大枝が肥大成長しながら押しくらまんじゅうしていた部分です。 腐朽は入っていなさそうですが、内樹皮の組織はつぶされて壊死していそうです。
では、今回折れてできた新しい傷はというと?
わずかこれっぽっちでした。 折れた枝は、この部分だけしか幹に繋がっていなかったということでもあります。 なお、黒っぽい部分は、先ほども出た隣接する大枝が押しくらまんじゅうしていた部分。 繋がってはいません。 折れた枝の大きさ(並みの街路樹一本分)を考えるとあまりにアンバランスです。 なぜそのような成長をしてしまったのか? 一つには、大枝に囲まれて周囲から支えられるような位置にあったことが挙げられます。 外側から支えられている枝は、その支えがあることを前提として伸びるため、その支えがなくなると構造的に不完全になってしまいます。 同時に、周囲の大枝の成長に負けて幹から分岐する部分の成長が抑制されていたことも理由として挙げられます。大枝に囲まれた年々狭くなる空間に押し込められ、いわば纏足のようになってしまっていたわけです。 今回、枝折れの直接のトリガーは、大雨で樹冠(枝葉のついている部分)が重くなったことと風による揺れだと思います。 しかし、事故の原因としては、上記のようなアンバランスな成長をしてしまったことと、前年にこの枝を支えていた大枝がなくなっていたことが指摘できると考えられます。 専門家として、事故前にこの木を診たとして果たして枝折れを予見できたか? 難しい事案ですが、少なくともこの枝を支えていた大枝がなくなった後は、風が吹くと不自然な揺れ方をしていたかもしれません。 多幹や株立ちなどの多くの幹をもつ樹木の場合、分岐部の観察はやはり重要な視点になることを覚えておきたいと思います。