【地域緑花の視点】行政代執行で道路に張り出した樹木の枝葉を撤去 東京多摩地区の「T神社」への請求額は1250万円。
2024.06.07 コラム
STAGE 編集部 人と緑・花をつなぐコーディネーター 地域緑花技術普及協会
少し前の案件となりますが、植栽管理のトラブルの事例の一つとしてご紹介します。
2020年6月20日からの二日間、東京多摩地区の「T神社」で樹木の枝葉の撤去の強制代執行が行われました。
行政代執行とは、何度も改善を要求しているにも関わらず所有者が対応しない場合に、行政が所有者に代わって必要な対策を取るものです(行政代執行法)。
道にはみ出た神社の木、市が伐採 迫る宮司「ご神木が」
| 朝日新聞デジタル2020年6月21日 https://www.asahi.com/articles/ASN6N73DWN6NUTIL00K.html
八王子市と国、代執行でご神木伐採 周辺道路に枝葉、指導22回も神社側応じず
| 毎日新聞2020年6月21日 https://mainichi.jp/articles/20200621/k00/00m/040/020000c
枝葉の撤去の行政代執行の対象は国道や市道に越境するケヤキやサクラなど60本。
作業は市道の一部を通行止めにし、クレーン車と高所作業車計7台、市職員と20人の作業員などの約70人が行い、神社北側から越境枝をチェーンソーで落としていきました。
途中、神社の宮司が「ご神木が枯れてしまったらどうするんですか」と市や国道事務所に中止を求め、警察官に制止される場面もあったといいます。
この問題は、2017年、住民らの苦情をきっかけとして国土交通省の国道事務所が樹木の枝葉が周囲の国道や市道にはみ出している状況を確認したところから明るみになります。
以降、国道事務所と市は、道路の構造や交通に支障を及ぼすおそれのある行為を禁じた道路法に抵触しているとして、口頭や文書で再三にわたり行政指導を行っていたそうです。
数年前の台風の時には境内で倒木もあったといい、地元の町会も「越境樹木を放置すれば、重大な交通事故につながりかねない」と困惑していたとのこと。
しかし、神社側は対応を取らず、「ご神木なので撤去できない」「樹木医に管理させているから大丈夫」と主張し、市側が剪定するという申し出も受け入れなかったといいます。
行政代執行の費用は所有者に請求されます。
神社は、市と国に約1250万円を支払うことになりました。
行政代執行前の現場の樹木の様子をgoogle mapで確認してみましょう。
国道に張り出しているケヤキ。美しい樹形ですが、交差点で広い路肩と二車線目まで枝葉が伸びています。
建築限界(法律上、クリアランスを設けるようにされている道路上の空間:車道上空450㎝)はクリアできているようにもみえますし、一般的には道路に張り出しているだけでは危険な樹木とはいえません。
ただ、交差点で信号機の表示を隠すように伸びているのがまずいです。
小さな枯れ枝が道路上に落ちてくる可能性は高いですし、交通量の多い国道であれば、道路管理者としては看過できないのは当然だと思います。
逆に、住民からの苦情があるまでこの状況に気付いていなかったのは大分問題があるような…
こちらは市道側の樹木。
建築限界の点では、市道側の方は問題がありますね。 車両制限令の高さ(車高380㎝)よりも低い場所もありそう。 大きなトラックは張り出した枝にひっかけてしまうかもしれません。 実際に車両の接触事故も発生していたようです。
行政指導に対して、神社側の対応はどうだったでしょうか。
再三の指導に対して、神社は「ご神木なので撤去できない」「樹木医に管理させているから大丈夫」と主張していました。
倒れる心配もない元気なご神木を根元から伐採するのであれば抵抗があって当然ですが、今回はほとんど剪定で対応できるケースに思えます。
そうであれば話は別です。
寺社といえど、人が暮らしている地域に所在する以上は、隣接する不動産の所有者間で土地の利用や管理を調整し合ってお互いの土地利用を円滑にすべきことは当然のことで(これを相隣関係といいます)、道路沿いの樹木を剪定しないことはあまり現実的ではありません。
「樹木医に管理させているから大丈夫」も、樹木医さんが管理にどの程度携わっていたのか不明です。また、樹木側だけの問題、樹木の健全度(倒れないか、折れないか、弱っていないか)だけ見れば、問題はなかったのかもしれませんが、道路交通への支障に関しては別の配慮が必要になってきます。
樹木を大切にされたいなら、樹木医さんに相談していただくのは正解ですが、樹木医さんも専門分野が様々です。
今回は、法律や相隣関係、行政手続きにも詳しい樹木医さんに相談すべきケースです。
行政代執行にかかった費用は、所有者に請求されることになりますが、その費用は通常よりも高額になることが普通です。
業者を選ぶのは行政職員で、しかもスピードが求められますので、費用を少しでも安く抑えようとする意識が働きにくいからです。
請求を無視すれば不動産なども差押さえられてしまいます。
結局、神社は行政代執行の費用約1250万円を支払うことになりました。
はじめの頃は、市から剪定するという申し出もあったということです。
市と良好な関係を保って適宜協力を得ながら管理計画を立て、段階的に対応していれば、費用負担は四分の一程度で済んでいたように思います。
所有者だけで対応することもできますが、樹木を痛めることなく、かつ道路交通に支障のないような管理計画を立てるには、専門的な知識が必要となります。
また、いくつかの植栽管理会社や植木屋さんに相見積りを取って比較することになりますが、費用を抑えられたとしても、樹木を痛めたり、境内の厳かな景観を損なうような結果になってしまっては元も子もありません。
手間をかけず、「安かろう、悪かろう」の対応としないためには、社寺林の管理計画策定などの実績のある経験豊富な専門家のアドバイスを受けて取組むことが近道です。
調査などの費用事態も所在地の自治体の補助金が受けられることもありますので、まずは専門家に相談されることをお勧めします。
行政代執行後の現場の樹木の様子。
(本文に記載のない参考資料)
・「道路に越境する危ない枝葉を行政代執行で除去」国土交通省 関東地方整備局 相武国道事務所 管理第一課、道路行政セミナー 2021.3
https://www.hido.or.jp/14gyousei_backnumber/2020data/2103/2103chiiki-ktr.pdf
・「はみ出すご神木「年内撤去を」 指導17回、初の期限」朝日新聞デジタル2019年12月21日https://www.asahi.com/articles/ASMDN3K01MDNUTIL009.html
・「信号機も隠す危ない「ご神木」 撤去しない神社の言い分」朝日新聞デジタル、2019年9月25日
https://www.asahi.com/articles/ASM9N3TFVM9NUTIL010.html