甲州街道ケヤキ街路樹倒伏事故 現場を確認して分かった倒伏の原因
2021.08.13 コラム
STAGE 編集部 人と緑・花をつなぐコーディネーター 地域緑花技術普及協会
8月9日午後1時50分ごろ、国道20号(甲州街道)、東京都調布市の下石原交差点付近で、街路樹のケヤキの倒木事故が起きました。 この事故については、STAGE編集部も既にブログで取り上げていますが、事故の2日後にこの現場を確認する機会が得られました。 現場を確認して倒伏の原因を示唆する事実がわかりましたのでレポートしたいと思います。
倒伏した街路樹が植栽されていた場所はここ。 赤い三角コーンが立っています。 甲州街道の交差点の角に近く、街路灯や信号灯の競合物も多い街路樹でした。
隣接する民有地は、都営団地でした。現在は建て替えのために更地になっています。 この道の先には現住の都営団地もまだ残っているので、倒伏した街路樹の以前の植栽環境が分かります。 歩道幅員が狭いため、民有地の施設と街路樹の枝が競合しやすい環境です。
そのため、歩道側の枝は、過去の剪定や日照不足が原因となる枯死により極端に少なくなっています。 いわゆる片枝(片側=この場合は道路側にしか枝がない)の状態です。 下枝も上がっていて(樹高に対して葉のついている枝の位置が高くてバランスが悪い)、重心が高い(かつ道路側にある)樹形です。 Googleマップで事故前の街路樹を見ても、ほぼ同じ樹形であったことが確認できました。 倒伏した街路樹のあたりに戻ると、道路を挟んで反対側の植え桝の雑草(オオアレチノギク?)が歩道側へ倒れていることに気が付きました。 倒れた時に樹冠がその位置まで達していたことが伺い知れます。 ガードレールはこの事故で当然損壊していますので、仮設のトラロープが張られています。 交差点の向かい側には交番が。 たまたまですが、そのおかげで事故後の混乱は最小限だったはずです。 ちなみにすぐそばには立派な調布消防署まであります。
植え桝の中を覗いてみます。 植え桝の大きさは長さ200㎝×幅100㎝ほど。 樹木の大きさに対してきわめて小さな植え桝といえます。 注目したいのが縁石です。 左側の歩道中央に近い縁石がアスファルトと一緒に浮き上がっています。 右の車道に近い側の縁石は無事。 大木が倒伏した割には、舗装などの損傷は大したことがないように思えます。 また、植え桝の中は事故後に土を充填したような感じはありません。 (現場に飛散していた土や礫などを掃き入れた感じです。) そして、倒伏した街路樹の根株は残っていませんでした。
これらから分かることは、根の分布の浅い街路樹が、車道に沿った長軸方向の根鉢を支点にして、根返りによって倒伏したということです。 根が深く分布していた街路樹が根返りしたとしたら、もっとアスファルトがめくれあがるなどの激しい損傷があったはずですし、根株を撤去するときに植え桝の中の土が根株ごとえぐり取られて穴が開きますから、たぶん土嚢などで穴を埋める状況になっているはず。 街路樹はよく地際で折れる、という倒れ方をします。 根返りとは倒伏のメカニズムが異なる地際での幹折れで、根株が腐っていることが原因であることがほとんどです。 この倒れ方をした場合は、倒れるのは幹だけで根株はほとんどそのまま残ります。 現場では根株が残っていませんから、この地際での幹折れではなかったと思います。 現場を訪問する前に既に根株はバックホーで掘り上げられていたという可能性、これもないと思います。 その場合は一緒に整地していないとおかしいので、事故のあった痕跡がこんなに残っているはずがありません。 以上から、今回の街路樹は、極端に浅くて狭い根系が弱点となり、強風で根返り倒伏したものと考えられます。 では、こうした根系の弱点が生まれた原因は何か、その弱点を見抜いて事故の発生を予見できたのか。 長くなってしまいましたのでそれらについてはまた別の機会にお話ししようと思います。