心地よい緑の風が吹き抜ける都心の並木道:丸の内仲通り【シリーズ・みどりの現場から】
2021.08.30 コラム

#人が中心の空間 #街路樹 #道路改修 #自然樹形

中川良雄

都市のみどり研究会、東京都庁OB
「今日のみどりの姿は私たちが本当に追い求めてきたものだろうか?」

そうした想いをもった、長年都市のみどりをつくり、育てる仕事にたずさわってきた「みどりの技術者」たち。
彼らは「都市のみどり研究会」を立ち上げ、「今求められる都市のみどりの姿」について議論を重ねています。

シリーズ「みどりの現場から」。
本稿では、「都市のみどり研究会」のメンバー、中川良雄さんが、みんなに知ってもらいたい「みどりの現場」を紹介します。

丸の内のビル街に現れた鬱蒼とした森             

東京駅からすぐ、丸の内仲通りは内外の専門店が軒を連ねる洒落た並木道。
ケヤキやシナノキ、カツラ、ユリノキなどの落葉樹がのびのび枝を伸ばしています。
休日には道一杯歩行空間になり、様々な催し物が行われオープンカフェがでて多くの人でにぎわいます。
丸の内のビル街に突如現れる鬱蒼とした森
丸の内のビル街に鬱蒼とした森が出現したようで、少し驚きます。
そして多くの人が吸い寄せられていきます。
人は都心であってもみずみずしい緑の空間を求めていることがよくわかります。
都心のビル街、爽やかな風が吹き抜けます。
『「クルマのための通路」から「人が中心の空間」へ』(三菱地所HP)のように意図された並木道で、繊細で自然な感じの樹形が維持されています。
のびのび枝を広げる樹木の美しさ、季節の移ろいや風を感じ、歩くだけで楽しくなる並木道になっています。

生まれ変わった並木道                    

東京駅から有楽町まで、いつも一駅前で降りこの道を歩いてしまいます。

以前の丸の内中通りは、ユリノキの並木が整然と並び、統一されたファサードをもつ高級専門店が軒を連ねる街路でした。
ここでの主役は専門店のウィンドウであり、統一された並木と彩度を落としたシンプルな街路がそれを引き立てました。

それが改修により柔らかな緑の天蓋を持つ並木道に生まれ変わりました。街路は人間のために開放され人間中心の空間になりました。
以前の丸の内中通り。
丸の内のまちづくりについて詳しく知ることができます。
丸の内仲通り “憧れの街"を支えるストリートの秘密(NPO法人大丸有エリアマネジメント協会 丸の内仲通り本編集室)幻冬舎 (2019/6/12)

管理は樹木を良く見て対話しながら               

よく考えられたこの並木道も、注意深く見るといくつか問題が見えてきます。

この道と植物がこれからもよりよく健やかに維持されるために、見え始めた問題に早めにしっかり対応できるとよいと思います。

1)ケヤキの剪定の問題

下の写真は、大きくしなるケヤキの枝です。
枝先端のみが繁り、その荷重でしなるケヤキの枝。
枝の途中の細枝が剪定され、先端だけに枝葉が密生する形になっています。
枝先端に荷重がかかり重そうで、折れる危険もあります(ワイヤーで吊っています)。
自然のケヤキではこうした枝葉の繁り方はありません。

ケヤキは自然な樹形を維持するのが基本ですので、本来剪定には馴染みません。
そのため下枝が通行の支障となる場合にその枝を付け根から切除する。
そして日照不足などで発生する枯れ枝を切除する。
ケヤキの剪定はこの程度にとどめるとよいでしょう。

2)見た目重視の地下支柱

並木の根元をすっきり美しく見せるため、地下支柱がよく使われます。
大変便利なものですが、大きな問題があります。

植えたばかりの樹木は、根が地中に張っていないので、風などで揺すられ幹や枝葉をしっかり支えることができません。
そのため樹木を植えた時には、風で揺れないように丸太などの支柱を取り付けます。
これを控え木と呼び、昔から行われてきた樹木を根付かせる方法です。

近年、人工地盤などで根が十分に伸長できないとか、控え木が景観の邪魔になるという考えで、移植木の根鉢(根と土を密着させるようにコモなどで巻いたもの)にワイヤーやベルト等を掛け、これを地中のアンカーや金属製の枠に固定する方法が開発されました。
これを地下支柱と呼びます。

しかし樹木は生き物です。
根鉢がワイヤーやベルト等で締め付けられると、成長するにつれ、ワイヤーなどの固定器具が根や幹元に食い込み、樹木は健全に生育できません。
そして地表から見えにくい地下支柱は一度取り付けられるとそのまま放置されることが多いのです。

こうしたことから、地下支柱は年に一度程度は締め付け具を確認して樹木を傷つけることがないよう緩める等の配慮が必要です。
ケヤキの幹に食い込む地下支柱(丸の内仲通りとは別の場所で撮影した写真です)。
3)樹木は成長し続ける生き物

下の写真は、根元際まで敷かれた舗装板を根が押しあげています。
樹木は成長に伴って幹や根を太らせます。
しかし、根が地中に十分伸ばせないと地表近くに偏った根が太くなり地表に盛り上がってきます。
そして、舗装板を持ち上げたり、舗装板が幹に食い込みます。
地表近くに偏った根が地表に盛り上がり舗装版を持ち上げます。
下の写真では根元の舗装はないものの、踏まれて土壌が固まってしまい、空気や水の通り道が塞がれ、根は酸欠状態になります。
早急に改善が必要です。
踏まれて、カチカチに固まった根元の土。
4)人のきめ細かいお世話が大切

ここ丸の内仲通りをはじめ、都会のみどり空間の多くでは、大きな樹木を畑から移植し、あたかもその場所で元からあった樹木のように演出します。
しかし、畑と建物に囲まれた都会では気象も土壌も大きく異なりますので、樹木は厳しい環境に適応しなければなりません。
従って、植えた人々は枝葉の伸び方や幹の状態などよく見て、苦しんでいる場合は手助けしなければなりません。

樹木は成長し続ける生き物ですので、設備や装置に任せるのではなく、人の目と手で確認して樹木が健康でいられるよう丁寧に管理することが大切なのです。
樹木が健全に育ち、みずみずしい枝葉を繁らせる「みどり」に、人が安らぎを感じるのですから。

中川良雄(なかがわ よしお)
都市のみどり研究会、東京都庁OB 

造園職として長年東京都で公園や街路樹等の整備や管理に従事。
携わった仕事は「お台場海浜公園」、「城南島海浜公園」、「大泉中央公園」等の計画・設計。町田・多摩市都道の路線毎の街路樹目標樹形計画。
中杉通りのケヤキ再生計画等。
退職後、「都市のみどり研究会」に入会。

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