【樹勢回復】神社境内の樹木の土壌改良を実施しました
2022.04.16 ブログ
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STAGE 編集部 人と緑・花をつなぐコーディネーター 地域緑花技術普及協会
土壌改良の目的
2022年3月に神社境内の樹木の土壌改良を実施しました。 実施者は、私たち地域緑花技術普及協会です。 今回土壌改良を実施させていただいた神社様は、社叢を守り、参拝者・近隣住民の安心・安全を守ることを目的として、倒木や落枝などの事故に至る樹木のリスクを把握されており、その調査も私たちがお手伝いをさせていただいています。 境内には人の踏圧等によって土壌が固結してしまった影響で、樹勢が衰退している樹木が見受けられます。 それらのうち、本殿にも近いクスノキ2本について、樹勢回復を図ることを目的として固まった土壌を軟らかくする土壌改良を実施したのが今回の業務です。
根系保護仕様書の策定と順守
私たちは、都市樹木の根系の保護について定める仕様書を策定しています(都市樹木の根系保護に関する仕様書、2020)。 都市樹木の周辺で行われる土木工事は、樹木の根に重大な損傷を与える蓋然性が高いものです。 根が損傷すれば、樹木の健全性は大きく損なわれ、樹勢衰退や枯死あるいは倒木などによる事故を引き起こす原因となってしまいます。 そのため、樹木の近くで行われる土木工事には根の損傷が最⼩限となるよう十分な配慮が求められます。 本業務は工事ではありませんが、公園内に車両や重機が入り、樹木の根を傷付ける可能性のある土壌の掘削を行いますので、この仕様書の内容を遵守して実施しています。
土壌改良の設計
土壌改良は、土壌改良対象個体の一定範囲内の土壌を掘り上げ、現場発生土に土壌改良資材を加えて埋め戻します。 これにより、新しい根が伸びるのに最適なふかふかの軟らかい土ができます。 土壌改良資材の施用量は多いほど良いわけではありません。 実務では施用量を土壌容量の約1-2割としている例が多く、私たちもそれに倣っています。 土壌改良資材は、予備調査の結果を踏まえて現地の土壌を改良するのに最適と考えられたものを使います。 今回は、2種類の有機質系の土壌改良材を使いました。 土壌改良範囲は、土壌改良時の根株や支持根の損傷・乾燥をできるだけ防ぐため、幹芯から一定程度外側で実施しました。 また、土壌改良をする幅は、予算と費用対効果を考慮して決定しました。 有機質系の土壌改良資材は、分解する過程で多くの地中酸素を消費するため、あまり深くまで有機質土壌改良材を施用することは逆効果になることがあります。 土壌改良の深さはその点を考慮して決定しています。
土壌改良の実施
土壌改良をする樹木は、参道の脇にあり、本殿にも近いため、そばを参拝者が良く通られます。 土壌改良を効率的かつ安全に実施するため、まずは作業エリアを囲って養生を行います。
土壌を掘削する道具は、根を傷つけないエアスコップ(*)を主に用います。 *エアスコップ:圧縮した空気を噴射して、根を傷つけずに固まった土壌をほぐす道具
エアスコップで全体を粗く掘削すると、根がない範囲もわかります。 根がない範囲の土壌は、本数が多い場合には小型バックホウを使って掘削・掘り上げをするのが効率がよく、合理的と私たちは考えています。 しかし、今回は2本ですので、エアスコップで根を露出させた後、丁寧に手掘りで土壌を掘り上げていきます。
その後、露出した根は鋭利な刃物で切り戻し、埋め戻した後に速やかな発根を促す薬品を切り口に塗布します。 地上部の支持に直接かかわるような太さの根については、切断すると支持力に影響する可能性があり、また、組織の癒合に時間がかかり、根の腐朽や枯死の原因となる可能性があります。 そのため、切り戻しは行わず、作業中に傷付くことのないように保護します。
掘り上げた現場発生土は、かき混ぜすぎないのがコツです。 土壌の粒子が細かくなりすぎると、かえって排水不良・通気性不良の原因となり、根の発育が悪くなってしまうこともあります。 同じ理由から、私たちは現場発生土と土壌改良資材の埋め戻し方にも工夫をし、特殊な工法を採用しています。 現場発生土と土壌改良資材は、軟らかい状態を維持したまま、土壌動物の活動や雨水の浸透によってゆっくりと混ざり合っていき、根系が成長に応じて最適な条件の土壌へと伸長していくように埋め戻すのが理想的だと考えています。
まとめ
本業務では神社境内のクスノキ2本に対して樹勢回復を目的に土壌改良を実施しました。 業務は、根系保護仕様書を順守して根を傷付けないように実施しました。 土壌改良は、土壌改良対象個体の一定範囲内の土壌を掘り上げ、現場発生土に土壌改良資材を一定量混入して埋め戻すことを内容としました。 土壌改良資材は、原則は有機質系のものを2種類用いました。 土壌改良の範囲は、根株や支持根の損傷・乾燥の防止、予算と費用対効果等を考慮して決定しました。 土壌改良の実施においては、根系の損傷を防ぐため、エアスコップを用いて掘削し、手掘りで土壌を掘り上げました。 支持力に影響がない根は鋭利な刃物で切り戻し、切り口に速やかな発根を促すためための薬品を塗布しました。 現場発生土と土壌改良資材は、軟らかい状態を維持したまま、土壌動物の活動や雨水の浸透によってゆっくりと混ざり合っていき、根系が成長に応じて最適な条件の土壌へと伸長していくように埋め戻しました。
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