【樹木事故】公園の樹木の倒伏 道路通行止め 電線切れ1300戸停電(愛知・名古屋市)
2023.07.14 ブログ
STAGE 編集部

人と緑・花をつなぐコーディネーター
 地域緑花技術普及協会

7月12日午後3時ごろ、名古屋市中区の都市公園(街区公園)、千早公園の樹木が根返りし、道路に倒れる事故が発生した。

倒れた木は、高さ15m、幹周180㎝のシンジュ(ニワウルシ)。
この事故で、道路は通行止めとなり、電線が切れて付近の住宅約1300戸が一時停電した被害があった。

この日、中部地方は大気の状態が非常に不安定で、各地で強風や雷雨が発生していた。
気象庁によれば、事故のあった午後3時頃は、名古屋市で最大瞬間風速35.4mが観測されたという。

名古屋の公園で倒木、雷雨の影響か 電線に接触し一時停電 (The Sankei Shimbun 2023/7/12 18:28)

樹木の事故と点検に詳しい一般社団法人地域緑花技術普及協会の細野哲央氏(農学博士、樹木医)に事故の原因を聞いた。

(編集部) 今回の事故は強風や雷雨が原因と報道されています。

(細野氏) 倒木の直接の原因はその通りですが、それだけではたくさんある公園の木の中でこの木だけが倒れたことが説明できません。
この木も倒伏の間接的な要因となった弱点を抱えていたと思います。
この木の倒伏1年前の画像を見ると、下枝(最下部に伸びている枝)がかなり上がっており、また枝葉が道路側へ生い茂っています。
つまり、道路方向に重心が大きく偏っている状態でした。

倒木の1年前の現場。右側のひときわ大きな木が倒れた。

(編集部) 小さく切り詰めて管理していれば倒伏は起きなかったでしょうか。

(細野氏) というよりは、過去の切り詰め剪定などの不適切な管理がこうした不安定な樹形を作ってしまったという見方が正しいと思います。
切り詰めた分、枝葉が強く伸び、樹高はすぐに元通りになってしまうのですが、陰になりがちな下枝や公園の内側の枝は成長が悪く、枯れるものも多くなります。
そのような管理の繰り返しでできたのがこの樹形です。

もう一つの弱点は根です。倒れた木の根株に注目すると、歩道寄りにあまり根が伸びていないことが分かります。
現状だと、現場は比較的広い歩道があり、歩道境界線に沿って低い石垣があるのですが、これは樹木が大きくなった後に、公園敷地を削り道路を広げて造られたものではないでしょうか。
倒伏前の画像を見ると、倒れた木はかなり歩道側に寄った位置にあり、よくみると、歩道側の根が切断されたような古い痕跡も認められます。
資料によるとこの公園の開園は1953年と古いので、その後に区画整理があったことは十分あり得えます。

倒れる前の根元。確かに歩道に近く、切断されている根も確認できる。

(細野氏) したがって、道路拡幅工事の際に道路側の根が削られ、その後も道路や石垣の基礎に阻まれて根が歩道側に伸びていけない状況になっていたと推測します。

そのような場合、地上部の重心は道路に偏っていますので、安定性を保つためには、公園の内側へ根が伸びていかなければならないのですが、そうなっていなかったことが倒木時の画像を見ると分かります。
非常に根が浅く、水平方向に伸びている根の範囲も狭い。
これは木が生育していた現場の土に問題があると思います。固くて水はけも悪いのです。

(編集部) 今回の倒木事故は防ぐことができたのでしょうか。

(細野氏) 樹木点検をしていたかはわかりませんが、根株に腐朽のない根返り倒木のようですので、点検をしていたとしても通常実施される手法では倒木を予見するのは難しかったと思います。

ただし、先ほどお話ししたように、樹形や根に弱点があることの兆候は十分認められますので、そこを入り口に土壌調査をして根の状況を確認したり、リスク低減措置として切り返し剪定による樹形縮小をしていれば防げた事故ではあります。

また、道路工事の際のケアや日ごろの管理が適切であれば、樹形や根の弱点は形成されなかったはずです。そこまで考えに入れてよければ、当然防げた事故ということもできます。

細野哲央
細野哲央
 一般社団法人地域緑花技術普及協会 代表理事
 樹木医 博士(農学) 国立大学法人 千葉大学 客員研究員

 樹木のリスクマネジメント、樹木医倫理の分野で日本の第一人者として知られる。植栽や庭園の施工・維持管理技術、緑化樹木の生産・管理技術、緑の生理・心理的機能、樹木の成長特性などにも造詣が深い。

わたしたちSTAGEは、寺社の樹木、企業の公開空地の樹木、私有地の樹木、保護樹木や公園木などの公共の樹木などの調査・点検や各種の措置を実施しています。

所有・管理されている樹木や樹林に倒木事故等のご不安がありましたらお気軽にお問い合わせください。


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