樹木の樹形のはなし(1)樹木が本来持っている自然な樹形
2022.01.20 コラム
#自然樹形 #剪定 #品種改良 #環境
細野哲央(ほその てつお)
 一般社団法人地域緑花技術普及協会 代表理事
 博士(農学) 樹木医
(STAGE編集部の視点)

樹木には様々な形があります。
樹木がそれぞれの特徴的な形を持っているのはなぜでしょうか。
よくよく考えると不思議で、とても知的好奇心が刺激されます。
今回のコラムでは、樹木医の細野哲央さんに樹木の樹形のお話をしていただきます。

それぞれの樹木が本来持っている自然な樹形

樹木には樹種によって特徴的な形、「樹形」があります。
今回はこの樹形についてお話をさせていただきます。
生活や仕事に役立つような知識は一切ないと思いますが…関心がありましたら是非ご覧ください。

さて、冒頭で樹種によって特徴的な形といいましたが、そんなにパターンがあるわけではありません。
代表的な形は卵型と円錐型でしょう。

これらの形に、ケヤキやムクノキのような盃型、ポプラやイタリアンサイプレスのような円柱型、イタリアカサマツのような傘型を加えれば、樹形のパターンとしてはほとんど網羅できていると思います。

樹木の地上部は幹と枝葉で構成されていますので、樹形はそれらの成長の仕方によって特徴が生まれます。
一般に、針葉樹は1本のまっすぐな幹をもつ円錐形の形になるものが多いですよね。
それは、先端の芽(頂芽)が側芽よりも強く伸長する性質を持つ針葉樹が多いからです。
円錐形の樹形が特徴的なヒマラヤシーダ
これに対して、広葉樹は頂芽優性が弱いものが一般的です。
このため、側芽も頂芽と同じように良く伸びて幹や枝がたくさん分岐していく結果、卵型になっていきます。
きれいな卵型の樹形(スダジイ)
シルエットでもケヤキだと分かる特徴的な樹形
「頂芽優勢」の性質は、植物ホルモン「オーキシン」の作用(頂芽を伸長させ、側芽の伸長は抑制する)であることが知られていますが、進化の過程でどうして樹種による違いが生まれたのかを説明するのは簡単ではありません。

ただ、基本的には、太陽の光を最大限に得られるように枝葉を広げること、倒れず折れない構造的な強さを持つこと、受粉と種子散布の戦略に合致すること、生育環境(気候・気象・土壌・生態系)に適応することなどの要素の兼ね合いによって最適な形が選択された結果と考えて差し支えないでしょう。

たとえば、寒冷地や高緯度の地域に多く見られる針葉樹。
その円錐形の樹形は、多雪地域で雪を自然に落とすのに(合掌造りの屋根のように!)役に立ちそうですし、高緯度の地域で低く上る太陽の光を最も効率的に受けることができる形に見えます。

一方で、雪や風などの外力や光が当たる方向のような環境的制約がないのであれば、全方位へ均等に枝葉を広げられた方が光の獲得に有利なはずです。

日本の太平洋側に分布するヤブツバキが卵型の樹形で10m以上に成長するのに対して、日本海側の多雪地帯に分布するユキツバキは下枝が良く伸びて枝分かれし、樹高も2mほどにしかなりません。
このようなユキツバキの樹形は、多雪地域の環境に耐えられるように適応した結果であることが知られています。

台風の通り道となる沖縄では、低いところからよく分岐して下枝を横へ大きく伸ばし、その下枝をさらに気根で支える、ガジュマルやアコウのような樹木が分布しています。
これらの樹形は重心を低く下げて強風でも倒れにくい形です。
重心を低くして強風に耐える樹形(アコウ)

樹齢によっておこる樹形の変化

樹齢によっても樹形は変化します。

広葉樹も幼木の時代は頂芽優勢の性質が強いため、側芽が短くシュっとした樹形をしています。
幼木はホームセンターなどでも売られているので、こうした幼木の樹形はイメージしやすいと思います。

幼木の樹形は、光の獲得に有利になるようにまずは樹高を高くすることにリソースを回そうという樹木の戦略のように思えます。
幼木の時代は頂芽優勢の性質が強い
樹木が弱って成長が停滞し始めると上方向への伸長が止まり、横方向の枝張りが目立つようになります。
もとの主幹を欠いて代わりに側枝が主幹に置き換わったような老木はイメージできるでしょうか。
(老木でなくても弱った樹木や幹が折れた樹木は同様の樹形となります)
もとの主幹を欠いて代わりに側枝が主幹に置き換わった老木
樹木は、光が当たる方向や風が吹いてくる方向、根が伸びられる土壌の深さなどでも樹形が変わります。

樹木の樹形のはなし(2)では、こうしたミクロなスケールの空間の環境によって変化する樹形についてお話しします。

樹木の樹形のはなし(2)ミクロなスケールの環境によって変化する動的な樹形


 細野 哲央(ほその てつお)
  
 一般社団法人 地域緑花技術普及協会 代表理事
 樹木医 博士(農学)
 国立大学法人 千葉大学 客員研究員 

 樹木のリスクマネジメント、樹木医倫理の分野で日本の第一人者として知られ、樹木と人のかかわりを切り口として、多岐にわたる分野の調査・教育業績をもつ。
 植栽や庭園の施工・維持管理技術、緑化樹木の生産・管理技術、緑の生理・心理的機能、樹木の成長特性などにも造詣が深い。
 市民や若手技術者の育成には特に力を入れており、市民講座や自治体職員・技術者向けの研修会などで精力的な講演活動を行っている。

関連記事

シリーズ「樹木の剪定講座」(基礎編)その1 なぜ剪定が必要なのか?

樹木の樹形のはなし(2)ミクロなスケールの環境によって変化する動的な樹形

樹木の樹形のはなし(3)人による樹形の変化

一般社団法人 地域緑花技術普及協会(STAGE)では、市民と専門家が手を取り合い、地域の緑や花を豊かに、美しく、健全に、守り育むための情報を公開しています。

お気軽にシェアお願いします。

最近の投稿
【緑と花の効用】大気中のマイクロプラスチックフィルター~森林が空気清浄機のフィル...
【地域緑花の視点】行政代執行で道路に張り出した樹木の枝葉を撤去 東京多摩地区の「...
染井吉野は短命なのか?
【植物を訪ねて】五島列島の椿
【庭園探訪】瑞泉寺庭園
カテゴリー