樹木の樹形のはなし(3)人による樹形の変化
2022.01.24 コラム
#自然樹形 #剪定 #品種改良 #環境
細野哲央(ほその てつお)
 一般社団法人地域緑花技術普及協会 代表理事
 博士(農学) 樹木医

前回までは、自然樹形や樹齢によって変化する樹形、ミクロなスケールの空間の環境によって変化する樹形についてお話ししてきました。

樹木の樹形のはなし(3)人による樹形の変化

人による樹形の変化

次回は、樹木の樹形のはなしの最終回です。

最後に人為的な影響で起こる樹形の変化についてお話しします。
(1)剪定による樹形の変化
高木を放任して自然のままに伸ばしておけば、いずれ人にとって望ましくない大きさになったり茂り方をしてしまいます。
そこで、樹形を人為的にコントロールするために行われるのが剪定です。

自然な樹形に見えても剪定が入っているのであれば、人為的に大きさを縮小され、成長を抑制されていますので、本来の自然樹形とは異なるものです。

日本庭園の松の樹形や盆栽の樹形は、老木感や巨木感、厳しい環境で育った風情を出すために、かなりの剪定の手間をかけています。
実は、理想化された自然の樹形を目指した、極めて人工的な樹形なのです。
日本庭園のマツの樹形は自然樹形ではない
人が理想とする樹形を作るための剪定
剪定をやめて放任したとたん自然樹形に戻っていく
樹形の変化がもっとわかりやすいのは刈込剪定です。
刈込ばさみやヘッジトリマーなどで枝葉の細かい樹木を刈り込めば、樹形を自由に変えて立体的な造形を作り出すことができます。

西洋庭園では、樹木で立体的な動物や幾何学的な形を造形するトピアリーと呼ばれる技法が古くから発達してきました。

日本庭園でも、ツツジ類やイヌツゲなどの樹種を刈り込んで玉ものに仕立てます。
ヘッジトリマーを使った低木の刈込剪定
イヌマキを刈り込んで作った門
刈り込んで玉ものに仕立てた低木(ツツジ)
剪定についてもっと詳しく知りたいという方は、今後「樹木の剪定講座」をシリーズで執筆していく予定ですので、そちらも併せてご覧になってみてください。

シリーズ「樹木の剪定講座」(基礎編)その1 なぜ剪定が必要なのか?

(2)品種改良による樹形の変化
品種改良によって、人為的に樹形の変化を起こすこともできます。
自然界でも遺伝的な突然変異は起こりますが、人が特定の目的をもって交配・選別してこれを行うのが品種改良です。

樹木の品種改良は、より観賞価値の高い花や葉、より甘くておいしい果実を付けることを目的として、花木や果樹の分野で盛んですが、樹形変化を目的として行われる場合もあります。
典型は、限られたスペースで育てることや管理面での省力化を目的とする、よりコンパクトな樹形をもった品種の作出です。
従来よりも樹高の大きくならない「わい性種」や、枝が立ち上がって枝張りが小さくなる「ファスティギアータ種」など、多くの品種が品種改良により生まれています。
ケヤキのファスティギアータ種、ムサシノケヤキ
ヤマボウシの一品種。極端に枝張りが狭い

おわりに

今回のコラムでは、樹木の樹形をとり上げて解説しました。

生活や仕事に役立つような知識は一切なかったと思いますが…、少しでも樹木の面白さに気が付いていただくきっかけになれば嬉しく思います。

 細野 哲央(ほその てつお)
  
 一般社団法人 地域緑花技術普及協会 代表理事
 樹木医 博士(農学)
 国立大学法人 千葉大学 客員研究員 

 樹木のリスクマネジメント、樹木医倫理の分野で日本の第一人者として知られ、樹木と人のかかわりを切り口として、多岐にわたる分野の調査・教育業績をもつ。
 植栽や庭園の施工・維持管理技術、緑化樹木の生産・管理技術、緑の生理・心理的機能、樹木の成長特性などにも造詣が深い。
 市民や若手技術者の育成には特に力を入れており、市民講座や自治体職員・技術者向けの研修会などで精力的な講演活動を行っている。

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シリーズ「樹木の剪定講座」(基礎編)その1 なぜ剪定が必要なのか?

樹木の樹形のはなし(1)樹木が本来持っている自然な樹形

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