「神田警察通り」街路樹伐採計画と反対運動(1) -事例から考える日本の都市樹木再生-
2022.04.25 コラム
#計画 #設計 #更新 #市民 #沿道整備推進協議会
細野哲央(ほその てつお)
 一般社団法人地域緑花技術普及協会 代表理事
 博士(農学) 樹木医

「神田警察通り」街路樹伐採計画

街路樹伐採計画を巡り、「神田警察通り」(東京都千代田区)が揺れています。

問題となっているのは、「神田警察通り」の改良工事(2期)の約230mの区間。
現在4車線ある車道の1車線を減らして歩道が拡張されるのですが、この工事で既存の街路樹がすべて更新されることが分かり、区民から反対の声が上がりました。

この問題について街路樹問題に詳しい細野哲央さんに伺いました。

1期工事区間の街路樹伐採中止の経緯

(1)沿道整備推進協議会

 ― 「神田警察通り」では、2018年に完了した1期工事区間(約220m)でも街路樹のイチョウ32本の伐採が予定されていましたが、住民の反対によって中止になったという経緯があります。
街路樹の保存を求めるキャンペーンサイトでは4万2千の署名が集まった
Change.org「100年の街路樹をオリンピック開発から守って下さい!」)
細野哲央さん(以下:細野):まずはそこから解説していきます。
千代田区にはもともと「神田警察通り」を街のシンボルとして再生する計画があります(神田警察通り沿道まちづくり検討委員会「神田警察通り沿道まちづくり整備構想 (案)」2011)
神田警察通り沿道まちづくり検討委員会「神田警察通り沿道まちづくり整備構想 (案)」2011
細野:区は、2011年に沿道の町内会長らで構成される「神田警察通り沿道整備推進協議会」(以下、協議会)*を立ち上げ、道路整備内容について地元に諮ってきました。

街路樹ももちろん検討の対象ですが、伐採・更新の方針が決まるのにオープンな議論はありませんでした。

一方で、区が策定した「神田警察通り沿道賑わいガイドライン」(2013年)(以下、ガイドライン)は、共立女子大学前のイチョウ並木を具体例に挙げ、「豊かに育った既存の街路樹を活用する」として保存の方針を明示していました。
*神田警察通り沿道整備推進協議会メンバー(神田警察通りの街路樹を守る会HPから)
(町会長)錦町1丁目、錦町2丁目、錦町3丁目、錦町3丁目第1町会、司町1丁目、司町2丁目、多町1丁目、内神田旭町町会、神田鍛冶三会町会、内神田鎌倉町会
(地権者・開発業者)UR都市機構、NTT都市開発、日鐵興和不動産、安田不動産、大林組、住友商事
(学識経験者)東京都市大学 講師(会長)、東京工業大学 特定准教授、東京電機大学大学院 非常勤講師
(区役所職員)まちづくり担当部長、景観・都市計画課長、道路公園課長、神田地域街づくり担当課長、地域まちづくり課長
 ― ちょうど1期工事区間の街路樹です。
保存の方針だったはずなのに、突然伐採するというのですから、どうなっているんだという声が上がるのは当たり前ですね。
細野:そうだと思います。
当時の報道では以下のような経緯が明らかになっています。

「七月下旬に伐採準備として街路樹の枝を払うと「歴史的な建物が並ぶ地域にふさわしい並木を五輪のために切っていいのか」と抗議の声が上がり、区は整備を一時中断した。

区が三年半前にまとめた「神田警察通り沿道賑(にぎ)わいガイドライン」は「既存の街路樹を活用」とうたい、区議会や地元関係者も区道整備は承知していたが、街路樹の伐採は寝耳に水だった。

区議会十月定例会には街路樹の保存を求める陳情が五件出され、十七日の区議会企画総務委員会では委員会の総意で計画の見直しなどを区側に求めた。」

(東京新聞2016年10月19日)
細野: 結果的に、区は再度方針を変えることになりました。

道路の利用状況に配慮して狭くて歩きにくかった歩道を拡幅するという計画自体は歓迎されるものです。
それだけに、街路樹を巡って紛糾してしまったことは不幸なことでした。
伐採反対の声により既存のイチョウ街路樹が保存された1期工事区間
既存のイチョウ街路樹を保存して歩道が拡幅された

(2)街路樹を更新したい人たち、保存したい人たち

― 随分前から協議会を作り、ガイドラインも策定して用意周到に見えるのに、なぜ区は街路樹伐採反対の声が上がることを予想できなかったのでしょうか。

細野: 協議会の中では道路整備に伴う街路樹の伐採・更新は既定路線だったようです。

区としては協議会で十分に住民の声を吸い上げられていると考えていたのでしょう。

― 実際にはそうでなかったということですね。

細野:はい。
「神田警察通り」は、江戸時代からの歴史のある地域にありながら、沿道には振興の商業ビルや店舗、賃貸マンションなども多いエリアです。
世帯構成も様々ですので、住民の価値観は簡単に整理できないほど多様化しているはずです。

これに対して、協議会に参加する町内会長さんたちの年代や性別、価値観に多様性はあったでしょうか。

- 町内会同士の関係性もありますし、同調圧力も強そうです。

細野:そういう場合は意見調整がしやすいに決まっているのですが、反面、少数意見は軽視されがちです。

街路樹の伐採・更新の事案では、大きく紛糾することがこれまでも全国でありましたし、千代田区内でもすぐ近くの「明大通り」で街路樹のプラタナスの更新計画について議論が起きたばかりでした。
更新・保存について議論が起きた明大通りのプラタナス街路樹(2022年撮影)
細野:仮にガイドラインでの保存の方針がなかったとしても、歴史がある大木で、しかも健全だというなら、伐採はしないでほしいと思う方もたくさんいることは想像できるはずです。

区側はもう少し想像力を働かせて協議会以外にも住民の意見を求めるべきでした。

- 街路樹を更新したい人たちと保存したい人たち、それぞれにはどのような思いがあるのでしょうか。

細野:街路樹を更新したい人は、既存の街路樹に対して大きなデメリットを感じている方達でしょう。

まず落ち葉ですよね。雨どいに詰まるし、イチョウなので滑りやすい。
雌木が混じっているのでギンナンが落ちる時期は臭いの問題があります。
それら落ち葉やギンナンを清掃しているなら負担を感じる方も多いでしょう。

狭い歩道の大木は有効幅員をさらに狭め、一部の場所で歩行者のすれ違いがしにくいし、傘をさしたときに歩きにくい。見通しも悪くなる。

根上がりで舗装の不陸が起きて、車いすやベビーカーが通れず、躓いて転倒する事故も誘発する。
などなどです。

区の街路樹担当からしても、そのような苦情が日頃から多い街路樹であれば、大規模な道路改良工事をする機会ですから、苦情が出にくく管理費用も抑えられる樹種に更新したいと考えることもあるでしょう。

道路改良工事をするにも、既存街路樹を伐採してから始めた方が簡単に決まっています。

- しかし、長い間そこで生きてきた木がまだまだ元気なのに伐採されるというのもかわいそうに感じます。

細野:保存したい人たちの想いはまさにそこですね。

街路樹としての樹木は「道路の付属物」にすぎませんが、成長して四季の変化をする生きた自然物です。

花や新緑、紅葉、落葉や冬枯れ、それを見て気持ちが動く。それがその時の自身の感情とリンクして忘れることのない思い出になったりしますよね。

- 私もそういう思い出があります。そんな思い出のある樹木が伐採されることになったとしたら、やっぱり寂しくなるでしょうし、そこで伐られないように行動を起こす気持ちも分かります。

細野:街路樹に人が「感情移入」してしまうのです。そこが街路樹が他の「道路の付属物」と決定的に違うところです。

千代田区緑の基本計画(令和3年7月改定)によれば、区の街路樹は区道だけでも5000本あります。
国道や都道も含めると約1万本です。

1期工事区間の伐採の対象になるのはそのうちの30本。
数字だけ見ていると、そのあと新植もするわけですし、取るに足らないことのようにも思えるかもしれません。
しかし、今あるそのイチョウが大切なんだよと思う方にとっては大問題です。
- 結果的に1期工事区間の街路樹は全て保存が決まりました。この結果についてどう思いますか?

細野:地域住民が納得できる形で保存が決定されたのなら素晴らしいことだと思います。

ただ、のちに2期工事の問題が起きてしまったことを考えると、残念ながらそうではなかったようなんですね。

- 次回は今回の2期工事区間の問題について伺います。

「神田警察通り」街路樹伐採計画と反対運動(2) -事例から考える日本の都市樹木再生-

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細野 哲央(ほその てつお)
  
 一般社団法人 地域緑花技術普及協会 代表理事
 樹木医 博士(農学)
 国立大学法人 千葉大学 客員研究員 

 樹木のリスクマネジメント、樹木医倫理の分野で日本の第一人者として知られ、樹木と人のかかわりを切り口として、多岐にわたる分野の調査・教育業績をもつ。
 植栽や庭園の施工・維持管理技術、緑化樹木の生産・管理技術、緑の生理・心理的機能、樹木の成長特性などにも造詣が深い。
 市民や若手技術者の育成には特に力を入れており、市民講座や自治体職員・技術者向けの研修会などで精力的な講演活動を行っている。 

一般社団法人 地域緑花技術普及協会(STAGE)では、市民と専門家が手を取り合い、地域の緑や花を豊かに、美しく、健全に、守り育むための情報を公開しています。

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