無残に剪定される街路樹に異議あり~市民と自治体が対話を通じて共通認識を得られるまで(対話詳細)【シリーズ・みどりの現場から】
2022.07.13 コラム

#市民活動 #街路樹 #剪定 #自然樹形 #市長への手紙

中川良雄

都市のみどり研究会、東京都庁OB
シリーズ「みどりの現場から」。
本稿では、「都市のみどり研究会」のメンバー、中川良雄さんが、自治体との対話を通して、街路樹剪定のあるべき姿について共通の認識を持てた事例を紹介します。自治体との詳細な書簡のやり取りも公開していただいています。
この事例のように丸坊主にされた並木を見て心を痛めている方は多いはず。何か行動を起こしたいと思っている方にはきっと参考になるはずです。

市民と自治体の対話(詳細)

*本文と対話の「概要」は下記からご覧いただけます。

無残に剪定された街路樹に異議あり~市民と自治体が対話を通じて共通認識を得られるまで【シリーズ・みどりの現場から】


① 2月25日 「市長への手紙 1」

○○市長 様

2月15日、目の前にあるユリノキの並木を見て愕然としました。
幹があるだけで、すっかり枝を落とされた無残な姿に変わり果てていました。
これは決して剪定とはいいません。街路樹を毀損したという以外の言葉が見当たりません。

○○市は基本構想のなかで「いつも身近に「安らぎ」が感じられるまち」を目指すとありますが、この街路樹の姿を見て、誰が「安らぎ」を感じられるでしょうか?

さらに「○○市の中心市街地」の現況と課題の中で「中心市街地では、都市環境の保全や景観形成のために、緑の視覚的効果が高い立体的な緑が必要です。」と述べています。
この街路樹の姿はそのようになっているでしょうか?

私はこの街路樹が○○市が目指す方向になっているとは、決して思えません。

街路樹などの樹木は一度、間違った剪定をしてしまうと、それをきれいな姿に戻すためには最低3年から5年はお世話し続けなければ戻りません。
その間、市民はその痛々しい姿を見続けなければなりません。生き物や自然を大切にしなければいけないと教わる子供達の目にはどう映るでしょうか?

私は○○市が好きです。歩いて行ける港があり、自然豊かな里山があり、きれいな農村風景が残り、落ち着いた品格のある住宅街がすべて散歩で行ける範囲にあります。
だからどうしてもこの哀れな街路樹の姿は容認できません。

○○市として、今回のユリノキの剪定をどう考えるか、今後どのような姿を目指し、どう管理いくのか、お答えいただきたいと思います。よろしくお願いします。

② 3月15日 「市からの回答」

○○駅北側 ユリノキ街路樹の毀損について(回答)

平素より本市道路行政にご理解・ご協力を賜り、御礼申し上げます。
この度、市長への手紙(市政ポスト)へお寄せいただきましたご意見・お問合せについて、下記のとおり回答いたします。

ご指摘のありました○○駅北側のユリノキ街路樹は、令和元年9 月頃ユリノキ沿線にお住まいの方々から、ユリノキに止まるムクドリの騒音や糞の被害の苦情を多くいただき、その対策として、令和元年10 月にユリノキの枝を落とし幹だけを残す剪定を行ないました。

そして、翌年には樹木も芽吹き生育上問題がなかったことから、今年度も同様の剪定作業を令和4 年2 月15 日に実施したものです。

しかしながら、街路樹には潤いのある景観の創出や温暖化防止といった都市環境の保全効果がありますので、この度の剪定はそれらの観点において配慮が足りなかったものと考えております。

今後は、緑の保全や景観形成にも配慮し、枝を全て払うのではなくある程度残すなどの管理手法を検討し、剪定等を実施してまいります。

今後とも、本市の市政についてご理解・ご協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

○○市道路部 道路維持課長

③ 3月22日「市長への手紙 2」

道路維持課長 様

市長への手紙にお答え頂きありがとうございます。
回答内容を検討しましたが、やはり私の意図するところに対し正確な回答になっていないと考えますので、再度、質問させて頂き納得のいくご回答を求めます。

ムクドリ被害については、多くの自治体で大変ご苦労されているのは良く識っています。
だからといって、路線全部のユリノキの枝を落としてしまうのは、あまりに安易で街路樹行政の敗北ではないでしょうか?
そのうえで、回答文について質問します。

1.樹木の芽吹き生育問題
「翌年には樹木の芽吹き生育上問題がなかったことから・・・」は明らかな事実誤認です。
翌年、芽を吹かず枯れた木がありました。
このような樹木の生理を無視した剪定は以前から行われ、一番緑陰が必要な夏の盛りに強剪定が行われ(同封写真)、その結果危機感を持った樹木は秋に新芽を吹き出し、それが冬の寒さで枯れ樹木を弱らせます。そして翌年弱った個体は何本か枯れました。これは事実です。
ご見解をお伺いします。

2.緑の保全や景観形成にも配慮した管理手法の検討
1.の記述を市として同意とするとして、市の基本方針である都市環境の保全、美しい都市景観の形成のため、今後街路樹をどう管理していくのかお示しください。

具体的には市の考える街路樹の目標像を示して頂き、それに至るためどのような管理(剪定と維持管理)を行うかお考えをお示しいただきたいと思います。

SDGSが叫ばれる中、○○市が緑豊かな環境先進都市になることを願っています。
(手紙に同封された写真)2017年7月28日撮影
極強剪定のユリノキ。真夏なのに全く緑陰がない。

④ 3月31日「市からの再回答」

2/25 付ユリノキ街路樹の毀損についての再質問(回答)

平素より本市道路行政にご理解・ご協力を賜り、御礼申し上げます。
この度、市長への手紙(市政ポスト)へお寄せいただきましたご意見・お問合せについて、下記のとおり回答いたします。

1. 樹木の芽吹き生育について
ご指摘のとおり、枯れてしまった樹木があったことは事実であり、真夏に強剪定を行なったことが樹木に対してダメージを与える結果となったものと考えております。
今後は、樹木の生育サイクルを考慮し、剪定に適した時期に作業を実施してまいります。

2. 緑の保全や景観形成にも配慮した管理手法の検討
今回は剪定の方法等、業者への指示があいまいであったことから、景観を損ねるような剪定作業になってしまったものと考えております。
今後は、具体的に高さや葉張り等を決めて作業指示を行うとともに、市職員の立ち合いのもと作業を行うなど、緑の保全や景観形成にも配慮した管理を実施してまいります。

以上の対策を樹木管理が継続的なものとなるよう意識して、課内での情報共有を行ない、担当者や業者が変わっても、今回のような事態を招かないよう引き継いでまいります。

今後とも、本市の市政についてご理解・ご協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

○○市道路部 道路維持課長

⑤ 4月14日「市長への手紙 3」

○○駅北側 ユリノキ街路樹の毀損について(再々質問)

(経緯) 2月15日、標記ユリノキ街路樹が幹を残すだけの無残な姿になっているのを見つけ、管理者である○○市に、どのような考えで行ったのか質問しました(2/15付市長への手紙)。
それに対し3/15付道路維持課長名で回答をいただきました。
しかし納得ができず3/22付再質問をしました。それに対し3/31付道路維持課長名で回答をいただきました。
しかしそれでも回答に十分納得できず再々質問をさせて頂きます。

2月25日付市長への手紙で、「ユリノキ街路樹の毀損」について、以下の2点で質問しました。

1.今回のユリノキの毀損について、市はどう考えるのか?
2.毀損してしまったユリノキを今後どのような姿を目指し、そのためにどう管理(育成)していくのか?
という2点について、市の考えをお伺いしました。

それに対する市からの回答です。

1.についての回答は、
・街路樹の意義や機能を考えると配慮が足りなかった。
・不適期に強剪定したために樹木にダメージを与えてしまった。
 そして「樹木の生育サイクルを考慮し、剪定に適した時期に作業する」との見解をいただきました。
2.についての回答は、
・具体的な高さや枝張りを決めて作業指示を行う。
・市職員の立ち会いのもと緑の保全、景観の形成に配慮した作業を行う。
との見解を頂いたと理解しております。

上記、市の見解については是非そのように実施して頂きたいと同意いたします。
その上で、今毀損したユリノキの街路樹をこの見解に基づき、長期的にどのように回復・育成していくのか?
目標とする樹形(樹高、枝幅)の設定と管理方針、現在の樹形から目標樹形に育成する実施計画をお示し頂きたいと思います。
以前の手紙に書いたように、樹木は生き物で一度毀損すると、その回復には方針を決め、それに従って最低でも3~5年程度管理し続けなければなりません。
よろしくお願いします。
(手紙に同封された写真と文章)ユリノキ街路樹(20211006撮影)
2019年9月に幹だけにした剪定から、2年2ヶ月手を付けなかったので、ここまで回復した写真。
ここまで回復したので、これからどのように育ててくれるのか楽しみにしていました。きれいな紅葉、5月には名前の所以のチューリップのような花がみられるのではないかと(写真上)…。
まずは、この段階まで戻すことが必要とかんがえます。
その後、枝抜き剪定を行い、バランスよく骨格枝を残し育成するべきだと考えます。

⑥ 4月26日「市からの再再回答」

○○駅北側ユリノキ街路樹の毀損についての再々質問(回答)

平素より本市道路行政にご理解・ご協力を賜り、御礼申し上げます。
この度、市長への手紙(市政ポスト)へお寄せいただきましたご意見・お問合せについて、下記のとおり回答いたします。

1. 長期的のどのように回復・育成していくのか?
枝がほとんどない現在の状態から概ね2年をかけ樹形を回復させます。
その後は回復した樹形を維持するように剪定時期や方法に留意して維持管理を行ってまいります。

2. 目標とする樹形(樹高、枝幅)の設定と管理方針について
歩道幅、周辺建物の状況等を考慮して、管理目標樹形タイプを矮正型自然樹形とし、概ね樹高=12m、枝幅=6mを数値目標として管理してまいります。
矮正型自然樹形とは、切返剪定により自然樹形の相似した樹形に縮小するものです。

3. 現在の樹形から目標樹形に育成する実施計画について
令和3年度に強剪定の実施(R4.2.15 に作業)を行なったことから、今後については下記の通り年度ごとに計画を立てて樹木管理作業を実施してまいります。

・令和4年度(1 年目);回復・育成
切口から発生した小枝から将来伸ばすのに良い枝を決めてそれ以外の枝を除去してまいります。(剪定適期の令和5年1月から2月頃)
枝の生育が遅く、残すべき枝の選定ができないようであれば、そのまま経過観察としてまいります。

・令和5年度(2 年目);回復・育成
原則、剪定等は行わずに経過観察を行ないますが、残した枝の強弱や伸びる方向がはっきりしてきましたら、枝数を絞り目標樹形と枝の伸長量を見極めて剪定樹形を決めます。

・令和6年度(3 年目)以降;維持
目標樹形を保つように剪定を実施してまいります。
作業時期は、原則として剪定に適した冬期剪定を基本として実施してまいります。

今後も、適切な街路樹の維持管理に努めてまいりますので、ご理解・ご協力を賜りますよう、よろしくお願いいたします。

○○市道路部 道路維持課長

⑦ 5月9日「市長への手紙 4(市回答へのお礼)」

○○駅北側 ユリノキ街路樹の毀損について(市回答へのお礼)

回答いただいた標記について、是非この通り実施していただきたくお願いいたします。

目標とする樹形の設定(樹高12m、枝幅6m)は適切なものと考えます。
また前回の丸太状からの発芽状況を見ると、1年目は手を入れず、樹体に力を付けさせるため剪定は極力しない方がいいのではと思います。2年目から枝の整理を始めればいいのではと思いますが、いかがでしょうか。

そして重要なことは、街路樹の剪定に確かな技術を持った職人(街路樹剪定士)がいる会社が実施することが必要で、市の担当者が立ち会い、街路樹剪定士と相談しながら実施することが肝要と考えます。
これについては仕様書にその旨、記載しておくことは必要でしょう。

参考までに「ユリノキの剪定」についての教科書(東京都技官 藤田昇著)を添付します。
是非一読いただきたく思います。

この通りのユリノキ並木を美しい立派なものにして頂ければ、周辺住民、通行人も季節毎に美しく、夏には緑陰を与えるユリノキを地域の誇りと思うようになると思います。

またもしかして落ち葉について、苦情が寄せられるかも知れませんが、そのときは声をかけてもらえれば清掃のお手伝いなどできることはするつもりでいます。

さらにムクドリについては、難しい問題であると思いますが一気に丸坊主にするのではなく、各地の事例を参考にして取り組んでいただきたいと思います。
私も各地の事例など、参考になりそうなものを収集してご提供したいと思います。

最後に近所を歩くと、市場まわりのイチョウやベニバナトチノキなどの街路樹が、毎年同じ箇所で剪定され、剪定箇所がコブ状になっているのを見かけますが、これも目標樹形を設定して、剪定も2~3年に1度実施すればいいのではと思います。

そしてそのためには路線ごとに毎年剪定するのではなく、○○市をゾーン分けして、ゾーン毎に一委託者に担当させ、業者の責任において必要度の高い街路樹から剪定する方式を検討されたらいかがでしょうか(プロポーザル方式)。
これにより必要性の低い街路樹の剪定を省き、樹冠を大きく充実させ、さらに経費削減につながると思います。

以上ご検討いただけたら幸いです。
ユリノキの今後の成長を楽しみに見ております、そして待望の開花も。またこれまで丁寧に対応頂けたこと感謝するとともに皆様の今後のご活躍期待しております。

本文と対話の「概要」は下記からご覧いただけます。

無残に剪定された街路樹に異議あり~市民と自治体が対話を通じて共通認識を得られるまで【シリーズ・みどりの現場から】


中川良雄(なかがわ よしお)

都市のみどり研究会、東京都庁OB 

造園職として長年東京都で公園や街路樹等の整備や管理に従事。
携わった仕事は「お台場海浜公園」、「城南島海浜公園」、「大泉中央公園」等の計画・設計。町田・多摩市都道の路線毎の街路樹目標樹形計画。
中杉通りのケヤキ再生計画等。
退職後、「都市のみどり研究会」に入会。

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