「神田警察通り」街路樹伐採計画と反対運動(2) -事例から考える日本の都市樹木再生-
2022.04.26 コラム
#計画 #設計 #更新 #市民 #沿道整備推進協議会
細野哲央(ほその てつお)
 一般社団法人地域緑花技術普及協会 代表理事
 博士(農学) 樹木医

「神田警察通り」街路樹伐採計画

街路樹伐採計画を巡り、「神田警察通り」(東京都千代田区)が揺れています。

問題となっているのは、「神田警察通り」の改良工事(2期)の約230mの区間。
現在4車線ある車道の1車線を減らして歩道が拡張されるのですが、この工事で既存の街路樹がすべて更新されることが分かり、区民から反対の声が上がりました。

この問題について街路樹問題に詳しい細野哲央さんに伺いました。
2期区間以降の道路横断構成:整備計画イメージ図(整備後)(PDF:438KB)

「2期区間(白山通り~千代田通り)以降の整備計画においては、地域へのアンケートや神田警察通り沿道整備推進協議会などのご意見を踏まえ、区が総合的に判断し、この度、2期区間の道路整備内容と2期区間以降の道路横断構成をまとめましたので、令和3年度~令和4年度において2期区間の道路整備を行います。」

神田警察通りの道路整備計画(千代田区)

2期工事区間の街路樹更新問題

(1)伐採の理由

- 「神田警察通り」街路樹伐採計画と反対運動(1)では、1期工事区間のお話を伺いました。今回は2期工事の話に戻ります。

1期工事の時のことがある「いわくつき」の道ですから、ふつうは慎重に進めるはずですね。
にもかかわらず、1期工事の時と同じような衝突が起こってしまいました。
細野哲央さん(以下:細野):このニュースを聞いた時は耳を疑いました。

2期工事区間は、ガイドラインで1期工事区間と同じ「歴史・学術ゾーン」に位置づけられています。

1期工事で紛糾した経緯を踏まえれば、2期工事でも街路樹伐採には反対の声が上がることを予想できないはずはありません。

ですから、素直に見ると、区側がごり押しで1期工事の時の意趣返しをしようとしているように思えてしまうんですね。
明らかな異常事態です。
神田警察通り沿道まちづくり検討委員会「神田警察通り沿道まちづくり整備構想(案)」平成23年
― 区は2期工事で1期工事とは異なった街路樹更新の対応をする理由をどのように説明しているのでしょうか。

細野:区の道路公園課の担当者は、1期工事の区間と違って、荷さばきなどに使う12台分の停車スペースを確保する必要があり、歩道と車道を合わせた幅員が4.5mしかない部分が出来てしまうことを挙げていますね。

そのため、円滑な通行を確保するには既存の「幹回りが110㎝ほどあるイチョウを伐採し、幹回りが18㎝以上のヨウコウザクラ39本に植え替える必要がある」と説明しています。

(東京新聞2022年1月8日「神田のイチョウ並木がピンチ… 学生街のシンボル、道路整備で伐採計画 住民は「切らずに活用して」」)
― 円滑な通行は、既存の30本のイチョウがあると確保できないものでしょうか。
伐採の後に39本のヨウコウザクラを植栽するのであれば、そんなに変わらないようにも思います。
細野:円滑な通行を確保するだけの目的であるなら、伐採は手段として合理的ではないと思います。

実際に現地を見てみると、本当に有効幅員の狭いところもありますが、民有地側に公開空地が広くとられているところもあります。

公開空地や道路の利用状況と街路樹の位置を考慮して停車スペースの設置場所を検討し、そのうえで円滑な通行を確保できない場所は個別に街路樹の伐採を判断する、そういった整備もできるはずです。
2期工事区間の歩道の現状:歩道ぎりぎりまで建築物が迫っている区間もある
2期工事区間の歩道の現状:公開空地があることで、歩道の狭さが気にならない区間は多い
2期工事区間の歩道の現状:広い公開空地が確保されている区間もある
― この説明だと更新ありきで進めていると思われても仕方ないかもしれません。

細野:そうですね。2018年の7月に完了した1期工事の後、どのような経緯があったのかについてみてみましょう。

2018年9月に街路樹の保存を求める陳情が区に出されます。

これを受けて、区は住民の意見を幅広く聴くためとして、沿道住民を対象にした「神田警察通りの整備にかかるアンケート」を2019年12月に実施しました(配布数4704通、回収数680通:回収率14.5%)。

― アンケートの設問や区が行った結果の分析にはいろいろと問題があるようです。
次回はこの点について解説をしていただきます。

「神田警察通り」街路樹伐採計画と反対運動(3) -事例から考える日本の都市樹木再生-

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細野 哲央(ほその てつお)
  
 一般社団法人 地域緑花技術普及協会 代表理事
 樹木医 博士(農学)
 国立大学法人 千葉大学 客員研究員 

 樹木のリスクマネジメント、樹木医倫理の分野で日本の第一人者として知られ、樹木と人のかかわりを切り口として、多岐にわたる分野の調査・教育業績をもつ。
 植栽や庭園の施工・維持管理技術、緑化樹木の生産・管理技術、緑の生理・心理的機能、樹木の成長特性などにも造詣が深い。
 市民や若手技術者の育成には特に力を入れており、市民講座や自治体職員・技術者向けの研修会などで精力的な講演活動を行っている。 

一般社団法人 地域緑花技術普及協会(STAGE)では、市民と専門家が手を取り合い、地域の緑や花を豊かに、美しく、健全に、守り育むための情報を公開しています。

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